第7話 行動の意味


「あれ、本当ですかね?

竹邑教授がプレゼン中にボタンを押すパフォーマンスをよくやるって話。」


「…さあな。でも仮に教授を疑ったとして、普通に考えてみろ。

今から人が死ぬと分かってボタンを押すか?」



走り出した車は幹線道路に合流し街を抜けていく。

いつもなら捜査が難航すると応援を呼んだりするが

本部は鷲宮テロに追われて応答しない。

よって、この昼飯前ついに自衛隊が本庁に到着したことも2人は知らない。



「あの…調書持って来たんですけど。」


「えぇ!?持って来たの!?ダメだよ機密書類なんだから~!

…で?何が閃いたの?」



突然のカミングアウトに声を上げ、進行方向と関の顔を交互に見る矢島。

表情の変化が少なく、声は怒っているのに穏やかな目で答えを催促する。



「拘留所に行ってずっと引っかかってたんです。

説明会に連れて行った【鷲宮興毅】はクジで決めたって書いてあるし

居合わせた識者たちとも接点がないんですよ。

最初は事故だって思いました。正直、みんなそう思うはずです。

でも誤作動が起きる原因を見たら何かおかしい、って。」


「拘留所で配線見ただろ。どうだった?いじられてたか?」


「いえ、キレイでした。

まるで組んだ当時から手を触れてないくらいです。」


「誤作動は起きるのか、起こすのか…。」


「それですよ。執行台の設置後に回線を切ったんなら床は抜けない。

矢島さん、やっぱり竹邑教授に会った方が…。」


「教授はあれからずっと精神がおかしいらしい。

まぁ仮に話せても切った、って言うだろうよ。」


「う~ん…執行台の開発責任者が説明会で誤作動を起こし囚人を殺害。

社会的メッセージ??ダメだメリットが思い付かない。」


「なんだ何か閃いたんじゃねーのか。教授以外の線は?

カメラ映像が流れたんだろ。ってことは誰かがどっかで見てたはずだ。」


「そうか…!遠隔操作!

システムにハッキングしてリアルタイムで回線をいじったんだ!」


「まだそうと断言できないけどな、今サイバー課に向かってる。」



警視庁本部には暴徒と化した鷲宮の若い衆が拳銃を持って次々と現れる!

出動した自衛隊に怯むことなく全身全霊をかけて攻め入ってくるのだ!

流れ弾が見に来ていた野次馬に当たるなど、状況は戦場に変わりなかった。

覚せい剤で痛覚麻痺を起こした若い衆たちは

手足を撃たれてもゾンビの如く立ち上がる。

そのすぐ横で大きな輸入車が隊員達を跳ね飛ばしながら暴走し始めた。

親を失い生きる目的まで失ってしまった彼らは兵器のように強力で強大だ。



「ん?何だあの人込みは…?」



サイバー課は本部にある。

輸送車の突撃事件以来に見る本庁は慌ただしく危険な状況だ。

2人は車を投げ捨ててビルに身を潜めた。

ゆっくり端に向かって進むとよりリアルな銃撃音が聞こえる。

表の公道が自衛隊の車で封鎖されているが隙間から倒れている人が見えた。

関は拳銃の弾倉を確認して突入する態度を示す。



「待て、死に急ぐな。この様子じゃサイバー課もどこかへ移ったかもしれん。」


「でも、この状況を見て黙ってられません…!」


「お前はそうやってすぐ熱くなるところがある。

冷静に考えてみろ、俺たちゃこのドンパチの原因を追ってるんだぞ。

今お前が行って真相が闇に消えたら鎮まるもんも鎮まらねぇよ。」



矢島は関の握り締める拳銃を押し下げて顔を近づけた。

眉間にしわを寄せじっと戦場を見つめている。

警官として争いの鎮火に努める姿勢はごく当たり前だと矢島は知っていて

だからこそ真面目な顔で、真面目な声で訴える。

呼吸を落ち着かせようやく目を合わせた関はゆっくりと拳銃をケースにしまった。

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