エピソード21 これからのためにーー整理確認前ならえ

「おい、アーシェが起きたぞ」


夜ご飯を食べ終えてーー。

みんなが居間でゴロゴロしながら、順番にお風呂に入っていたそのとき

ちーくんさんが居間に顔を出してそういう。


はっとしてそちらを見やると、ちーくんさんの後ろからふらりと顔を出すアーシェさんの姿がある。


顔色が随分と悪く、顔と頭に包帯が巻かれている。どうやって巻いたのかわからないけどうまい具合に目や鼻や口はでている。


アーシェさんは、一度は目覚めたけど自身の顔の傷を見て気を失ってしまったらしいからああされてるのだろう。(クーガさんいわく自分の美しい顔に傷がついたのが相当なショックだったそうな……)


ちーくんさんの話だと治癒の魔法はかけたけど治るのに少し時間がかかるらしい。だからそれまでは包帯を巻いておくみたいだ。


「やっと起きたのね。心配させてんじゃないわよ」

台所で洗い物をしていたシエルさんが居間へ来てそういう。

「真っ先に僕を心配してくれるなんて。やっぱりシエルは僕のことが好きなんだね……。でも、ごめんね。僕には最愛のひとがいるんだ」

「はいはい。いいからはやくそこ座りなさいよ」

アーシェさんが話してる途中で呆れた声でそういう。

「あら、アーシェ起きたのね」

そういうのはずっと薬草作りに集中していたボブさんで、

「そしたらお風呂に入ってるクーガを呼んでこないとね。あと、そこで寝てるあーも起こさなきゃ。悪いけどアルくん、あーのこと起こしてくれる?」

と続けてまくしたてる。

そう言われて僕は慌てて「はい」と返事をする。

そして目線をやるのは斜め前で大の字になって寝ているあーちゃんさん。クーガさんから借りた上着を布団がわりに体にかけて寝ている。

「あーちゃんさん、アーシェさんが起きられたのであーちゃんさんも起きてください」

「……えぇ……だってまだ朝じゃないでしょ……」

「あの、あーちゃんさん」

これは言葉で言っても起きないだろうと思い、肩を揺さぶってみるけれど、それでもやはり起きない。

かなり深く眠ってるのかな。

どうしよう。

せっかく任されたこともこなせないなんて……。

そう思っていたら、ふっと隣に誰かやってくる。

「私に任せて」

お風呂上がりのクーガさんだ。

随分早いなと思っていたら「ちょうどあがったところだったの」という。

それから改めてあーちゃんさんと向き合い、いたずらっ子のような表情を浮かべる。

「こういうときはね、こうやって……」

そういうと同時にあーちゃんさんの鼻をつまむ。

「え?あの、それじゃ息が」

「ふがっ!」

僕が言葉を発すると同時にバッと起き上がるあーちゃんさん。

「朝っ?!」

そういってキョロキョロ辺りを見回す。

そして強制的に偽装の朝を告げたクーガさんが僕をみてウインクする。僕は苦笑いを浮かべながらただ頷く。

「そうそう。朝を待つ美しき漆黒の闇の時間だよ」

気づけば僕の後ろに座っていたアーシェさんが気障っぽくそういう。

今は顔中包帯だらけ、なので、いつも以上に決まってないというか残念というか……。

「あっ!シェーシェー起きたんだ!おっはー」

相変わらず呑気なあーちゃんさんには、なんだか自然とため息が出てしまう。

「ほら。全員分の千茶いれたわ。」

そんな声とともにテーブルでコトンとなる音。

見てみればシエルさんが人数分のコップがのったお盆をテーブルに置いたところだった。

「ほら、配って」

誰にいうでもなくそういわれて、慌ててコップをとろうとして気づく。

そういえば、カヤがいない。

そう思って辺りをキョロキョロみていたら、二階から降りてきたらしいボブさんと不意に目があう。

ちょうど僕に話しかけようとしてたところらしい。すぐに口を開く。

「アルくん、カヤちゃんのこと見なかった?どこにもいないみたいなんだけど」

そんな質問に「いいえ」と答えようとして、つい昨日のことを思い出す。


頭を冷やすためという理由で外に、しかも屋根の上にいたカヤ。


そのことを考えればもしかしたら今も……。


「少し外を見てきます」

そういうと僕は誰の返事も待たずに駆け出した。







「やっぱり……」

もし、予感が外れてカヤが屋根の上にいなかったら、行方不明になってしまっていたら?


僕にはまだ信じられていないけど、クーガさんがいってたみたいに恐怖で動けずにいたら

……そう考えたら息が止まるような思いだった。


けど、よかった。

カヤは予想した通り屋根の上にいた。

屋根の上なのに胡座をかいてリラックスしてるように見える。



「おお、アルフレッドではないか」

いつもみたいな、無邪気な笑顔を浮かべて。


上がってこないのか?とでもいいたげなその表情に、

「アーシェさんが起きたんだ。だからもう会議を始めるみたいで。それで、君のこと呼びにきたんだ」

と呼びかける。

「なるほどのう」

そういうカヤは、相変わらず呑気だ。

これから会議が始まるといってるのに、目の前にポッカリと浮かんでいる満月を見たりしてる。

そしてその満月は、本来そこにあったはずの城の代わりに、燦然と輝いていた。

気づいたら僕もその満月を夢中になって見ていた。


そしたら

「わしの」

「うわっ」

唐突にすぐそこでする声に驚き若干腰を抜かす。

気づけば屋根から降りて僕の隣に来ていたカヤはそれをさして気にするようもない。

ただ悠然と、言葉を紡ぐ。

「わしの行く先々でわしの邪魔をする者がいての。其奴が今回の黒幕な気がしてな。一瞬、頭が真っ白になったのじゃ」

どこか悲しそうにもとれる声音。

クーガさんがいっていた、カヤが一時動けなくなったときのことだろうな。

「わし、記憶がないからの。何をしでかしたのか、定かにはわからん。から、余計に怖いんじゃと思う。いく先々でこれほど邪魔され、それほどまでに恨まれることをした、わしというわしでもよくわからない存在が……」

「……」

「世にも稀なゼウス派を掲げているのじゃって人の命を奪いたくないという善なる考えだけではなく、根底ではもう誰にも恨まれたくないという私欲があるのではないかと思う」

正直カヤがいうことは難しい。

善なる考えとか、私欲とか。

でも、

「僕はさ……クーガさんがみんなのことをまとめてるのをみて、僕って団長候補なのになにもできてないってモヤモヤしちゃって。カヤみたいな難しいこと全然考えられなくて。いつも小さなことでうじうじしてる。沢山難しいこと考えてるカヤはすごいね」

自分のことを多少卑下していうのは全然慣れたことだけど、何度やってもピリリと心が痛む。


不意にカヤの顔を見てみたら、その顔には心底不思議そうな表情が浮かんでいた。


なんでだろう。

そう思っていたら


「なにをいっとるのじゃ?わしからしたらおぬしのその悩みがよっぽとすごいことじゃと思うぞ。もちろん、いい意味でな。わしなんぞはそんな他の者と比べることもせず軍師の候補であるにもかかわらず押し付けがましくいってしまうからの。……要は、悩みもそれぞれ。そしてそのそれぞれの悩みに尊い意味が、沢山詰まってるんじゃよ」

最後は悟りをひらいたようにそういうからなんだか僕は力も抜けてふにゃりと笑う。


お互いの悩みの解決なんてなにもでてないし、お互い言う気もない。


だけどなぜか、少なくとも僕は、こんなにも胸が清々しい。



不思議だな。



「さ、そろそろ中に行くかの」

「うん」


僕は先ほどまで眼前に広がっていた焼け落ちた城に背を向けて、月光を背中に浴びながら仲間たちが待つ空き家の中に入っていった……。

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