4#カモシカとシカとの再会
「牝居ない!!牝居ない!!」
1年過ぎた。
すっかり成獣へ成長した、カモシカのゲンタは番になる牝カモシカが一向に見付からず、殆ど発狂寸前だった。
「牝居ない!!牝居ない!!牝・・・」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
みぃーーーーー!!みぃーーーーー!!みぃーーーーー!!みぃーーーーー!!
「はい、一休みぃ!!ストップストップ!!」
シカの群れは、カモシカの姿を見付けると停止の号令をかけた。
「ゴンタさーん!!こっちこっち!!」
「『ゲンタ』です!!間違えないでよ。」
カモシカのゲンタは、膨れて言った。
ゲンタがシカの群れに近付くと、立派な角の其々に風船の束を結んだ一匹の厳つい雄シカが、じーっとここから見詰めていた。
「あーゴメンゴメン!久しぶりだなゲンタ君、見ろよ僕の角に結びまくった風船の数々。僕が拾って膨らませて角に結んで、ほうら、目立つでしょ?!これぞ、僕流の『シカ王』のスタイル。」
その時だった。雄ジカのノルンが一瞬、伝説のシカ王の『ジーン』に見えてしまった。
カモシカのゲンタが産まれた時には、既にジーンは死んでいたが、そこにシカ王こと『ジーン』が居たのだった。
・・・神々しい・・・
ノルンの従父のシカ王のジーンは、人里に迷いこんだクマを助ける為に身を呈して角の風船を使って守り抜いた伝説の雄ジカだった。
そのシカ王が、側に居る・・・と思うと胸が熱くなり目から涙が溢れた。
「よお!!カモシカのゲンタ!!何を泣いてるんだ?一緒に遊ぼうよ!!」
「でもさあ、君後ろの仲間はどうするんだい?」
「だぁかぁらぁ!!一緒に僕の群れとランデブーしようと。ほおら、角の風船1個だけあげようか!?」
「いいねえ?牝カモシカ探しを兼ねて、一緒に行こう!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
みぃーーーーー!!みぃーーーーー!!みぃーーーーー!!みぃーーーーー!!
「カモシカさんいいなあ。お前は『天然記念物』で大切にされて。
僕らシカなんか、増えすぎたからって何時も人間に命を狙われてんだぜ?!」
カモシカとシカの群れは、まるで風船の束のように縺れ合いながら、フワフワと浮かぶように、山野を駆け抜けていった。
~カモシカとシカの風船~
~fin~
カモシカとシカの風船 アほリ @ahori1970
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