3#シカを助けろ!!風船で・・・
「あ~あ・・・風船がこんなになっちゃった・・・
息を吹き込めば、膨らんで元通りになるんだけどなあ・・・」
子カモシカのゲンタは、すっかり空気が抜けて萎んだ緑色の風船の吹き口をくわえて、とぼとぼと山野を歩いた。
「膨らまそっかな・・・でも、ゴム風船が割れる音、ビックリして嫌だしなあ・・・」
ゲンタの吹き口にくわえた風船は、ゲンタが呼吸をする度に、ぷくっと膨らんだり、しゅっと萎んだりした。
「ゴム風船・・・ゴム風船・・・ゴム風船・・・」
ゲンタは立ち止まって、目を閉じた。
ぐう・・・ぐう・・・ぐう・・・ぐう・・・
ゲンタは、そのまま眠りこけてしまった。
・・・あれ・・・?
・・・ゴム風船・・・?
ゲンタは、無数の風船を身体に付けて空を飛んでいる夢を見ていた。
・・・飛んでけ、俺のゴム風船・・・!!
風船の浮力でどんどんどんどん、上昇するカモシカのゲンタ。
ぷしゅ~~~~~~・・・
・・・うわっー!ゴム風船から空気が漏れてる・・・!!
ぷしゅ~~~~~~~・・・
ぱぁん!!ぱぁん!!ぱぁん!!ぱぁん!!ぱぁん!!
・・・うわぁーーーー!!こんな時にゴム風船が割れまくるなんて・・・!!
ゲンタが真っ逆さまに墜落したとたん・・・
ばっ?!
「ああ、夢か。」
ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!
みぃイイイイ!!みぃイイイイ!!みぃイイイイ!!みぃイイイイ!!みぃイイイイ!!みぃイイイイ!!みぃイイイイ!!みぃイイイイ!!
「あれは・・・!!」
今さっき、風船を取り合って喧嘩したあの子シカが、獰猛な野犬に襲われていたのだ。
ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!
みぃイイイイ!!みぃイイイイ!!みぃイイイイ!!みぃイイイイ!!みぃイイイイ!!みぃイイイイ!!みぃイイイイ!!みぃイイイイ!!
「怖い・・・!!犬怖い・・・!!」
子カモシカのゲンタの身体は、緊張と恐怖でガタガタと震えた。
・・・くわばら・・・くわばら・・・くわばら・・・くわばら・・・
「見なかった事に・・・いや、駄目だ!!困ってる奴は見捨てられない!!そうだ!!」
子カモシカのゲンタは、決死の覚悟で牙を剥いて子シカに襲いかかる野犬に気付かれないように、恐る恐る側に近寄った。
そして子カモシカのゲンタは、萎んだ緑色の風船の吹き口をくわえると、息を思いっきり吸い込んで、頬っぺたをパンパンに孕ませて、風船へ息を渾身の力を込めて吹き込んだ。
ぷぅ~~~~~~~~~!!
ぷぅ~~~~~~~~~!!
ぷぅ~~~~~~~~~!!
ぷぅ~~~~~~~~~!!
ぷぅ~~~~~~~~~!!
ぷぅ~~~~~~~~~!!
ぷぅ~~~~~~~~~!!
子カモシカのゲンタの膨らます緑色の風船は、どんどんどんどん大きくなっていった。
「ああっ!!今さっきのカモシカ!!逃げろ!!」
子シカは、ゲンタの姿を見かけると大声で叫んだ。
ぎろっ。
「やば・・・」
野犬に気配を気付かれたカモシカのゲンタは、冷汗をかいて洋梨のように大きく大きく膨らんだ緑色の風船を、更に息を吹き込んだ。
「う~~~~~~!!」
野犬は今度は、子カモシカのゲンタへターゲットを絞ると、牙を剥いてパツンパツンになった風船を膨らまし続けるゲンタへ飛びかかってきた。
「もう駄目だ!!」
子シカは、瞑った。
その時だった。
ばぁーーーーーーーん!!
とうとう風船は膨らませすぎて、山林に轟く程の破裂音を轟かせてパンクしてしまった。
「きゃいーーーん!!きゃいーーーん!!きゃいーーーん!!きゃいーーーん!!きゃいーーーん!!」
風船の破裂音に仰天した野犬は、悲鳴をあげてその場を去っていってしまった。
「カモシカさん・・・危ないとこを助けてくれて、どうもありがとう・・・」
割れた風船の吹き口をくわえたままキョトンと座っている、子カモシカのゲンタへ子シカは深々と頭を下げた。
「ごめん・・・あんたが欲しがってた風船割っちゃった。」
「いいの、いいの。風船よりも命が救われた方が。」
「そういえば、あんたの名前聞いて無かったな。俺はカモシカの『ゲンタ』。君は?」
「僕は、雄ジカの『ノルン』だ。あのシカの王、『ジーン』の血を受け継ぐ者だ。」
「ええっ?!シカ王の『ジーン』様だって?!俺、よくシカ王の『ジーン』様のことを父が話してたけど・・・父はまさか、そのシカ王『ジーン』様との知りあいだったとは知らんかったし・・・奇偶だなあ。」
みぃーーーーー!!
みぃーーーーー!!
「あ、僕を仲間が呼んでいる声がしてる。カモシカさん。また出逢ったら一緒に遊ぼう。出来れば風船で。じゃ。」
子シカのノルンは、子カモシカのゲンタに別れの合図をすると、ぴょーんぴょーんと叢の中へ去っていった。
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