22話 人喰らい
2階では翔と隊長各の男が退治している頃1階に残った龍忌は雑兵を相手していた。いや、相手にすると言う表現より雑兵を喰らっていた。と、たとえる方が自然なほど圧倒的であった。
ある兵は腰から上が無く、またある兵は胴と頭を失い四肢がバラバラに散らばっていた。その様子はまさしく獣が餌を食い散らかしているように見え兵達は戦意を早々に失い逃げ惑っていた。
「…あー、そういえばあの偉そうな奴が居なかったな…主人に伝えに行ったのかね?……はぁ、仕方ないな…。」
龍忌はそんな独り言を呟くと続けて自身のスキルを発動させた。
「原典『枢要罪』:
そのスキルが発動したとき周囲を食い散らかしていたバケモノは黒い霧となり霧散し屋敷全体へと広がっていく。
その頃には既に生きている人間はおろか肉の断片や血痕の一滴すら残っていなかった。
「フフッ…さて、僕も向かおうかな。」
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「…ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
翔が扉に手をかけた瞬間、中からとてつもない悲鳴が鳴り響く。その悲鳴に2人は体を震わせるが勢いよく扉を開ける。
「あああああぁぁぁ!!!マリクか!?早くこの気色の悪い虫をどうにかし…ヒィィ!!!?だ…誰か!助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!!」
扉を開け目の前にいた小太りな男は2人を見た瞬間逃げ惑い喚きちらす。
服にはゴテゴテと装飾品をつけ部屋の中には金をつぎ込んだであろう高価そうな絵や壺装飾品で飾られており趣味が良いとも言えない部屋であった。
目の前に居る小太りの男がアダリーロアと言う男なのだろうが先程から叫び声を上げ此方を直視しない。それどころか顔が青白くなり目が泳いでいる。
「あ…あの、これはどういうことでしょうか?虫なんていないじゃ無いですか。」
翔の隣にいたフェイがそう問うと翔は呆れたように答える。
「リュウが何かやったのは確かだろうな。多分逃げないように幻覚でも見せてんじゃねーかな。…どうする?この発狂したこいつを殺すか?それとも1度正気に戻してからにするか?」
「…いえ。早く帰りたいのでこのままで良いです。」
「そうか、じゃあ任せた。」
そうしてフェイは再び双剣を構える。フェイの目の前に居るアダリーロアはいつまでも叫び続け目の前に幻覚を見続けていた。
「これで…、私達はお前から解放されるっ…。」
フェイは最後にそう呟きアダリーロアに向かっていき勢いよく剣を振るう。
剣は暴れ狂う男を肩から切り裂く。すると鮮血が吹き出し辺りを紅く染め上げていく…筈だったのだが鮮血は近くに居たフェイや床、壁などにつくこともなく一定の隙間を作り宙に浮いて止まった。
「…あーあー、勿体ない、もったいナイナア…っと失礼。そこの死体は僕が貰ってもいいかな?」
翔とフェイは背後からした声に驚きすぐに振り向くと体の半分が黒い靄で覆われ目の部分が紅く輝いている龍忌が立っていた。
「なんだお前か、あの声は本当にビビるから止めて欲しいんだけどな。」
「そんなこと言われてもねぇ。これでも抑えてるんだから少しくらい我慢しろ。」
「俺は良いけどフェイが居るだろうが。」
翔はそう言ってフェイの居る方を見ると龍忌もフェイの方へ視線をずらす。
フェイは下を向き体が小刻みに震え息も荒く立っているのがやっとという状態だった。
「あー、すまん。ここまでになるとは思わなかったな。」
「…ったく。他に誰かいるときは気をつけろよ。」
翔は震えるフェイに近づくと頭の上に手をかざし小声で呟く。するとフェイの震えや呼吸も徐々に治まりいつもの調子に戻ったのかハッとした表情で前を向いた。
「すまないね。これからは気をつけるよ。」
「えっ……あっ…いえっ…その、こちらこそ失礼しました…。」
「そんなにかしこまらなくて良いぞ。それよかもっと言ってやれ。」
「しなくて言いからなフェイそれよかショウにその剣でぶった切ってしまえ。…それとそこの男は貰っていいのか?悪いのか?」
龍忌は横たわっているアダリーロアの遺体を指差し2人に再度問う。
「そうだな俺はいいと思うけどフェイはどうだ?」
「あ…、私も大丈夫です。」
「そ?なら遠慮無く…あ、フェイは目を瞑っててくれた方が良いかも。」
突然そう言われたフェイはキョトンとした顔をした後、龍忌から黒い靄が出始めているのに気付き両手で目を隠す。
フェイが目を隠したことを確認した龍忌は遺体に視線を戻すと黒い靄で黒い蛇を形作る。蛇はアダリーロアの遺体に近づき頭から徐々に丸飲みにしていき全身を呑み込むと同時に黒い霧となり霧散した。
「もう良いぞ?」
翔がそう言うとフェイは手をどかし先程まで遺体のあった場所を見る。
そこに遺体が無いことを確認し驚くとすぐに龍忌の方を向く。
龍忌の周囲には黒い靄が漂いそれが徐々に龍忌へと吸い込まれるように消えていった。
「さて、後始末はやっておくから先に帰ってても良いよ。」
「そか、ならお言葉に甘えて先に帰らせて貰うわ。…フェイ宿に帰るぞ?…転移!」
翔は戸惑うフェイの手を取り、続けて転移魔法を使用すると2人は一瞬にしてこの場から消えてしまった。
「…《混沌》」
残った龍忌はスキルを発動させると黒い靄が溢れ隣に人型になっていく。しかし完全な人型ではなく背に蝙蝠のような羽根を持ち頭からは山羊の角を生やした男になった。一見すると悪魔のように見える彼はそのまま屋敷の天井を破り外へ出ていってしまった。
「原典『枢要罪』:
悪魔が出ていった後残った龍忌は再び黒い靄を使い目の前に楕円形に拡げるとその中へと入っていく。残された黒い靄は霧散して消え、屋敷には誰も居なくなった。
それから数分後、他の屋敷からの連絡か衛兵隊のような者たちが屋敷に突入するが誰も居ないため何があったのかを知ることは無かったが悪魔を見たという者たちが数人居たためその悪魔の仕業だと広まった。
とある上空、噂の元になった悪魔型の彼は静かにその場で黒い霧に戻り霧散していった。
二度目はのんびり過ごしたい 紫苑 @panndora
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