21話 天罰

 「「…は?」」


 後で構えていた兵はそんな声を次々と上げる。兵の前方には双剣を抜き此方を見据える獣人のフェイと微動だにしていない翔と龍忌しか居らず、先に動いた兵の全てが地に伏している。


 「う、狼狽えるな!ただのガキじゃないぞ!気を引き締めろ!」


 隊長格の男は声を荒げ叫ぶ。それを聞き周りの兵が3人を見る目を変えた。


 「男2人の内1人は格好からして魔法使いだ。接近戦に持ち込め。もう1人には魔法を使える奴が囲って討ちまくれ!獣人の女は俺残った奴が全員でかかれ!!」


 「行け!失敗は許されん!あの獣人の女を必ず捕らえろ!男は殺せ!!」


 隊長格は続けて叫ぶ。兵は直後に3人へ向かっていく。ただ、先程とは違いフェイを注意深く見ていることだろうか。


 兵がフェイに向かって剣を振る。その攻撃は腕や肩、足を狙い機動力を削ごうとしているのだろう。しかしフェイはそれを2本の剣で受け流していく。


 





 その光景を眺める隊長格の男は愕然としていた。たった1人の少女が、数日前まで姉の影に隠れていた少女が、なぜ此程までの実力を得るに至ったのか。


 隊長格はそばにいる兵に向けて言葉を残すと何処かへと走って行った。


 




 フェイに剣を向ける者は徐々に減っていき、ついにはフェイに向かった兵全ては地面に転がされていた。そして、後で静観していた翔と龍忌に目を向けるとフェイは息をのんだ。2人の後にいつの間にか兵が数人回り込んでいた。その兵達は音を消し近づき武器を振るう。


 「…詰めが甘いな。」

 

 「フェイには感知系を覚えさせた方が良いかもなぁ。」


 フェイが2人に向かって叫ぼうとした瞬間、2人はそんな気の抜けた言葉を呟くと大きな轟音と共に翔は白く輝く鳥籠に守られ、龍忌は黒く光を通さない暗幕を斬りかかってくる兵の方へ広げ防いでいた。


 兵は防がれたことに驚いたのか目を見開き短く声を出す。


 「あー、翔とフェイは先に行け。いちいちやってられん。あと…腹が減った。」


 「…もうかよ、じゃあ先に行かせて貰うかな。行くぞフェイ。」


 「え、あの、心配はしていないんですが、良いんですか?」


 「良いの良いの、あいつの食事に巻きこまれたくないしな。正直フェイが見るようなもんでもない。」


 「わ、わかりました。それじゃあ先に行ってきます!」


 翔とフェイはそのまま2階の方まで前方の兵をなぎ倒しながら進んでいった。


 「さて…、お前らはどんな味がするんだろうな。」


 龍忌の体から黒い靄だ溢れ蛇を形作る…が、そこから先は蛇とは言えない異形へと変わっていく。

 

 



____________________



 2階を走りアダリーロアのいる部屋へ真っ直ぐに向かう。2人は下の階からの悲鳴に動じることもなく進んでいくと1人の男、先程下にいた隊長格の男が目的の場所である扉の前に立っていた。


 「あー、そこどいてくんない?その先にいる奴に用があんだけど。」


 「悪いが通すわけにはいかない。ここでお前を殺し女を捕縛する。」


 「下の悲鳴は聞こえないわけ?明らかにお宅の兵の悲鳴だろう。」


 「下の兵と私は実力が違うし、ただの雇われた傭兵だ。親しい奴も居ない。お前達を始末したあと向かってもう1人を殺せば済むだろう。」


 隊長格の男はそう言うと剣を構える。言うだけ下に居る兵とは纏う雰囲気も違うのかフェイは緊張している。


 「…はぁ、しゃーないか…。フェイはそこで待ってろよ。すぐに片す。」


 「は、はい。」


 「では、行くぞ!」


 隊長各の男はそう言うと共に剣を構え翔へ向かって走り出す。


 「教典『七元徳』:正義ユスティティア…さて、お前の正義は俺の納得できるモノか?」


 翔はそう言うと向かってくる隊長格の男にてをかざす。


 「死ね!」


 男は持っている剣の間合いに入りそう言って剣を振り下ろす。


 「審判ジャッジ、判決は…有罪ギルティだな。」


 翔は呟く。その瞬間、男は全身を光に包まれた。それは柱のように天井から降り辺りを照らす。


 男は何が起きたのかわからない様子で光の中で目を丸くする。しかしすぐに異変に気付いたのか男は自らの腕のあった所を見た。


 男の腕は既に無く何かに淡く溶けていくように肩へ。そして足、胴、頭と徐々に消え始める。男は自らの腕や足を見て絶句し、その後何かを言おうとしたのか口をパクパクと開くが、声は聞こえずその後数十秒ほどで完全に消えてしまった。

 

 

 

 



 その光景を最後まで見ていたフェイも絶句していた。今目の前で起きた現象に、それを行った翔の軽率さに、自身との圧倒的な実力差に。


 「…」


 「なんだ、俺のことが怖くなったか?」


 フェイは翔に話しかけられピクりと体が震える。


 「っ、い…いえ。そんな…こと…。」


 「いいよ、遠慮しなくて。自覚はあるからな。」


 フェイの脅えた声に翔は苦笑して返す。


 「それよりさっさと行くぞ。もしかしたらさっきの男のが俺達のことを言って逃がしちまったかもしれねぇ。」


 「あ…、そ…そうですね。早く行きましょうっ。」


 そして2人はアダリーロアの部屋の扉に手をかける。

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