20話 戦闘開始
貴族街にある屋敷はどの家も大きいが、そこに住む貴族の爵位によって場所と大きさも変わってくる。
ノクタムの町には多くの亜人と言った者たちが多く住むが貴族の大半がその者らを見下しているためあまり貴族は多くないが市民を偏見無く扱う者とただの道具とみている者と大きく分かれている。
現領主はそんな偏見を持たぬ貴族達と懇意にしているためあまりノクタムの町で目立った亜人差別が起こっていないのだろう。
翔達3人はそんな貴族街の中でも端に位置する屋敷に入っていった。
屋敷の主人はアダリーロア・ナバンという伯爵である。当然、市民を道具のように扱い私利私欲のために税を使うような者であった。
そんなアダリーロア・ナバンの屋敷、玄関ホールに3人はいた。3人は自身達の存在感を龍忌の『負ノ眼』の効果で消しているためすでに起きている使用人達は未だ気付いていない。
「えーと、あぁ、アダリーロアって奴は2階の角部屋に居るみたいだな。」
「それならフェイは先に行くか?僕たちはここで数を減らしておくから。」
「…いえ、もう少しこの剣に慣れたいので一緒に行かせて下さい。」
フェイは少し考えてからそう言うと続けて2人にお願いをした。
「あと、出来るだけ私1人でやりたいんです。元々私の問題ですし、こんなに色々して貰ったのに私は何一つ返せてません。」
「それで?フェイ…お前は俺達にどうして欲しい?」
フェイの言葉が終わるとすぐに翔が問いかける。
「…私が死にかけていても助けないで欲しいのです。」
その言葉に翔と龍忌はピクリと反応する。
「「無理だ。」」
と、2人は同時に答える。それに驚きフェイは目を丸くしていると翔が話し始めた。
「いいか、俺らは過去に大切な誰かを失った経験がある。俺は目の前で失ったが隣に居るこいつは自らの与り知らぬ所でだ。」
翔は龍忌を見ながらそう答える。その様子をフェイは真剣に聞こうとしていた。すると今度は龍忌が口を開く。
「自身の知らぬ所で誰かを失うことに対して人はそうそう関心を示すことなどない。だが自身の大切な存在なら話は別だ。今回のようなときは尚更な。フェイは今日姉に何も言わずにここへ来た。姉は当然お前を探すだろう。昨日の話からしてお前達姉妹の絆は確固たるものなのだろうしな。」
龍忌はフェイの目を見て話し続ける。
「そんな大切な家族が何も言わずにここへ来た。もしお前が姉の立場ならどうする。当然探すだろう?」
フェイは頷く。
「その時の心境はどこにいったのか。無事だろうか。何かに巻きこまれていないだろうか。が一般的だろうが、昨日の会話の後だお前の姉はこうも考えるだろうな、もし会話を聞いてたのなら愛想を尽かして出ていってしまったのでは無いか。もしくは貴族の所へ1人で行ってしまったのではないか…とな。」
「…長く話しすぎたな。もしそんな状況で人知れずお前が死んでみろ。お前の姉は自信の無力さと配慮のなさを悔やみ自分自身を壊していくぞ。…それが嫌なら素直に助けを呼べ。僕達がここに居るのはフェイ…お前の護衛も兼ねていることを覚えておけ…絶対に、死ぬな。」
フェイはその後少し考えると先程のお願いを訂正した。
「それじゃあ、見守って居て下さい。そして、…危なくなったときは助けて下さい。」
フェイは俯きながらそう答えると翔は大きく頷き龍忌は小さく頷いた。そんな中、始めに翔が動く。
「そろそろ戻すぞ。」
「あぁ、」
と、翔と龍忌は互いに頷き合う。
「『正ノ眼』俺達の存在感を元の数値まで俺のMPから足していく。」
翔がそう言うと3人が少し光る。すると突然、ビーーー!!と、言う音が屋敷を包む。その音に呼応し屋敷に居る使用人が忙しなく移動する。
その間絶え間なく続く警告音は、しばらく続くと消えてしまった。使用人達は既に何処かへ待避したのだろうか、代わりに屈強な兵達が玄関ホール前を埋め尽くし3人を凝視する。
「子供じゃねーか。」「何でここに?」
「どうやって入ったんだ?」
等と近くの兵と話す声が聞こえる。
「あの女ってあの宿屋の奴じゃねーか?」
兵の1人がそんなことを言い出すとそれは次第に兵達全体へ行き回る。
「アイツ捕まえたら報酬出るんじゃねーか?」「いや、何しにきたんだよ。」「そりゃあ自分からナバン様に貰ってもらうためじゃねーか?」「なら後の2人は誰だよ。」
次々と言葉が飛び交う。そんな中、兵の1人…全員が鉄の装備をしているのに対しその男が純白の、恐らくオリハルコンの装備をしていることから隊長格なのだろう。その男は
「ここに来た目的は何だ。」
と、3人の目を見て言う。続けて
「ここはアダリーロア・ナバン伯爵様のお屋敷だ。平民風情が入ること自体烏滸がましい。その少女は宿屋の獣人か。その少女をおいて後の2人はすぐに出ていって貰おう。」
「悪いができねぇなぁ。こっちはフェイの護衛で来てんだ。…お前らの主人を潰すためにな!」
翔がそう宣言した直後兵達は手に持っていた武器を再度構える。
「なるほど、お前達2人で我々を降すのか。大人しく獣人を置いていけば殺されずにすんだものを…やれるものならやってみろ!ガキ共が!」
隊長格の男がそう叫ぶとすぐに3人に向かって突撃を始めた。それに続けて後の兵達も一斉に動く。
兵達は真っ直ぐに翔と龍忌に向かい剣や斧、槍等を向け襲い掛かる。
「…おいおい、目の前にもう1人居るだろう。」
翔のそんな呟きの後、向かってきた兵は大きな金属音が鳴ると地面へと崩れ落ちた。
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