真夜中のセイレーン

萌黄匂

プロローグ 歌い姫

『あるところに、笛吹きがいました。笛吹きは、幼い、それはそれは可愛い娘を連れていました。笛吹きは、毎日、娘に歌を歌わせました。娘は、それはそれはいい声で歌いました。

鈴のように美しいその声は、人々を魅了しました。

その声に心を奪われてしまった人は、どんな人でも笛吹きの思い通りになるのでした。

笛吹きは悪い魔法使いだったのです。

それに気づいた人々は笛吹きを捕まえました。

笛吹きと娘を魔女裁判にかけました。

魔女裁判で無罪になる人はいません。

笛吹きは悪者でしたが、娘を愛していました。

『どうにかしてこの子を助けたい』

笛吹きは裁判の間考えました。

そして娘に言いました。

『私が処刑される時、おまえの監視は薄くなる。その時に、歌いなさい。お前の歌に虜になった人を操っていたのは、本当はお前なのだ。そして、きっと無事に逃げ出しなさい』

娘は言う通りにしました。

娘は、見事に逃げ出しました。

そして、寂しくなりました。いつも、笛吹きと一緒にいたのですから。

そんな時、笛吹きの最期の言葉を思い出しました。

『寂しくなったら、海へ行きなさい、お前のお母さんは海にいるよ』

娘は海に行きました。海で、歌いました。

すると、海から人魚が現れたのです。

『ああ、その声は愛しい我が娘。こっちへおいで、もっと上手く、歌が歌えるようにしてやろう』

娘は人魚と一緒に海の宮殿に行きました。

そして、この世で心奪われないものはいないほど、美しく、上手に歌うようになりました。

やがて人魚は長い長い寿命を終えてしまいました。

人魚は最期に言いました。

『私のことを思い出して、時々でいい、歌っておくれ。お父さんもそれを望んでいる』

娘も、これから先、千年二千年、生きて行かなければなりません。

娘は陸に帰りました。

そして、毎晩毎晩、笛吹きと人魚のために歌い続けたそうです。

それから、娘は歌い姫と呼ばれるようになりました。』

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真夜中のセイレーン 萌黄匂 @moeginioi

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