主人公になれなかった僕は主人公を倒す

@bobobobo_0721

第1話主人公になるために。

眠れない夜中にふと思うことがある。主人公とはなんだ ? 悪を倒すのが主人公 ? 成功した奴が主人公 ? クラスの人気者が主人公 ? だけど主人公はモブに向かって大体こう言う。


「自分の人生は自分が主人公」


しかしあれは嘘だ。少なくとも、僕はそう思う。そんなこと言う奴は大体、高校時代から酒やタバコ、性行為を嗜んでいる側が言うセリフだ。しかし誰もが一度は主人公に憧れる。そして諦める。奴らはこちら側の気持ちはわからないのだ。しかし僕は諦めない、絶対に主人公になってみせる。中学時代は言われる側だったが明日からは高校生。高校生になったらきっと何かが変わるはず。そう期待しながら目をゆっくりつぶる。

そして気づいたら部屋のカーテンの隙間から漏れる朝日がまだ完全には起きていない僕の体を目覚めさせてくれる。今日はやけにすんなりと起きれた、ふと時計を見ると完全に遅刻。急いで身支度をし、パンをくわえながら学校に向かう。

ちなみに寝坊をしたのはわざとだ、パンをくわえながら学校に向かう、いかにも主人公っぽいシーンだろ ? そしてその次に何が起こるかも容易に想像できる。

そんなことを考えているうちにポイントA、通称「MAGARIKADO」がやってきた。そう、パンをくわえて走る、曲がり角がある。こんな状況で女の子とぶつからないはずがない、そしてぶつかった時に言うセリフも予習済みだ。今の俺に死角はない。全力疾走で曲がり角を曲がると、何かにぶつかることもなくポイントAを通過した。なぜだ ? 主人公ならばここで絶対にぶつかるはず。しかし僕はぶつからなかった。まさか、僕よりか前にもうすでにポイントAで主人公体験をした奴がいるのか…… ? くそっ、やられた。しかしポイントBがまだある。


……、全てダメだった。ポイントBもポイントCも不発に終わり、特に遅刻することなく学校に着いた。

教室に入るとほぼほぼ全員揃っており、そこには知っている顔なんて一つもなく、前の黒板に貼られている座席表の席に座る。しばらくすると担任と思わしき人物がやってきて出欠確認が行われようとしていたその時、勢いよく教室の扉が開いた。


「お、遅れてすみません ! 曲がり角でぶつかった女の子を手当てして、道に迷ったおばあさんを案内していたらこんな時間に……」


「わかったから早く席につきなさい」


こ、こいつ主人公っぽいぞ、ポイントAで主人公ポイントを稼ぎ、おばあさんを案内。しかも遅刻してきてこんなにタイミングのいい時に入って来る。そして、最悪にも主人公は俺の隣だった。


「よろしく、俺は小鳥遊かもめ」


「よ、よろしく、僕は田中圭一」


こいつ、小鳥遊だなんて名前からして主人公だ。そんな主人公の隣の席なんてまるで僕が引き立て役、いわゆるモブじゃないか。このままじゃ中学時代と同じ道をたどることになるかもしれない。それだけは避けなければ。

出席確認が終わりいよいよ次は自己紹介、主人公の自己紹介って言ったら皆んな当然派手なのを想像する。しかし ! そんな想像してる奴ははっきり言って三流以下だ。今の主人公の自己紹介はシンプルに。これが基本だ。例えばそうだな……


「光ヶ丘中学出身の小鳥遊かもめです、皆んなよろしく !」


そう、そんな風に……って全く僕と考えてた奴と同じじゃん。やばい、次は僕の番だ。なにかこの場をどんでん返しできるものはないか ?


「み、緑中学しゅっ、出身の田中圭一です、趣味はど、読書です」


僕が自己紹介を終えてもと小鳥遊の時のような拍手はなかった。しかし、隣の席、小鳥遊はそんな中ただ1人だけ僕に向かって笑顔で拍手をしていた。

自己紹介が終えるとその日はもう解散。僕が帰る準備をしていると隣で小鳥遊が親睦会に誘われていた。僕も期待して少し待ってみた、が、一向に誘われる気配もなくクラスの大半が親睦会に行ってしまった。僕ももう帰ろうとすると後ろから声が聞こえる。


「ねぇ、君もあちら側になりたいの ?」


僕以外にもまだ残ってる人がいたのか。そう思いながらドアを開け、再び足を動かし教室から出ようとするとまた同じ声が聞こえる。


「聞いてる ? 田中くん」


その声が僕に向けられていると気づき、後ろを振り返るとその声の主は黒髪の美少女、名前は確か佐城と言っていただろうか。


「君も主人公になりたいんだよね ? 田中くん、私と一緒になろうよ、主人公」


「……、なぜそれを ?」


色々聞きたいことはあった。しかし考えているうちにふと漏らしたその一言に彼女は答える。


「ん〜、私と一緒、だったからかな」


「一緒…… ?」


「君、今日パンくわえて登校してたでしょ ?」


なんと彼女は僕の今日の一日を全て当ててみせたのだ。そして僕も彼女のことを少しわかった、こいつは確実に僕と同じ、主人公になりたい側の人間だ。


「とりあえず友達になろうよ、私は佐城由美、よろしくねk


「よ、よろしく、僕は田中圭一」


友達 ? 小中と友達と呼べる女の子は少ない俺に初めての女友達。やっぱり高校生になったら何かが変わる !


「とりあえず、今日のところはここまでね、また明日会いましょう、圭一くん」


「うん、さようなら佐城さん」


彼女はそう告げると僕が出ようとしていたドアから出て行き、出て行く際にニコッと笑ってくれた。


あいつを利用すれば僕はうまく主人公になれそうだ……。あいつは僕と同じだからきっと利用しようとしてくるだろう。

僕の主人公生活の幕開けだ。

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