第21話 答えにくい質問には、質問で返すのがベスト
せっかくシビアな面接官モードから、やさしいマイホームパパにもどっていたオヤジの眼が、再度炯々と光りはじめる。
「国松も国松だが、わしはそれ以上に、そなたのふるまいが気になるのう」
「「は!?」」
「そうではないか、竹千代。そなたはまんじゅうが危ないとわかったうえで、国松に供したのであろう?」
「……っ……」
思いもかけない切り返しに青ざめる兄貴。
「どのようなつもりで弟に毒まんじゅうをふるもうた? いくら不仲とはいえ、穏やかではないのう」
優しげな顔にうかぶ真っ黒い笑い。
「その年で弟を害そうと図るとは。わしも長子相続の利は認めるが、さような者を世継ぎにすえるはいささか心もとない」
えっ、そっち!?
「あ……そ、それは……その……」
秋だというのに、兄貴の額には玉の汗が浮かびはじめる。
「わっ、私の、こ、小姓が、そ、それでつい……国松は、母上が……」
予期せぬメンタル攻撃にもはや完全にパニック状態。
そのズタボロのガキから送られてくる必死の
ばかやろう!
こっちだって、自分のことでいっぱいいっぱいなのに、おまえのケツまで拭けるかよ!
おい、クソガキ、『人を呪わば穴二つ』っていうことわざ知ってるか?
他人をハメようと画策すれば、自分だって無傷じゃいられないってことだよ。
こうなることくらい予想してから仕掛けてこいよ!
ムカムカしながらジト目で見やると、蒼白な涙目にすがるように見つめ返され……、
あ、もしかして、こいつ、おれをハメようとしたわけじゃないのか?
ということは、純粋におれが毒まんじゅうを食った理由を知りたかっただけ?
やれやれ。
そんな甘ちゃんで、いまだ戦国の気風が色濃く残るこの時代に、荒ぶる侍どもの頂点――武家の棟梁になれるのか?
こんなのがトップになった日には、この世界の徳川は三代で終了するんじゃないか?
そうなると、想定しているのとはちがう破滅エンドになる可能性も……?
しょうがない。
明日から主君になることだし、ここはひとつ恩でも売っておくか?
「では、父上はなぜだと思われますか?」
いまだするどいまなざしで兄貴をねめつけているオヤジに話しかける。
こういう時は、逆質問して時間をかせいで、その間に答えを考えるのがベストだ。
「なんだと?」
絶対零度の視線がこちらに向く。
「も、もし父上がわれらの立場だったら……」
内心チビりそうになりながらも、なんとか応戦。
「父上にも同腹の忠吉叔父上がいらっしゃいましたゆえ、おわかりになるかと」
オヤジの同母弟・松平忠吉はかなりな美男子で人柄もよく、美形好きなジッチャンがすごく可愛がっていたらしい。
そのうえ、武勇にも優れ、関ヶ原の戦いでは初陣ながら、猛将・福島正則と先陣争いを繰り広げ、最終局面では島津勢に果敢に挑み、傷を負いながらも敵将のひとり島津豊久を打ち取るなどの武勲を立てている。
だが残念なことに、その七年後の慶長十二年、二十八歳の若さで病死している。
それに対しオヤジは、関ヶ原には大遅刻で不参加。
そのせいで後継者としての資質に疑問を持たれ、あやうく跡取りから外されそうになったという話もある。
そして、容貌の方はさほど悪くはないものの、その茫洋としたキャラから、ついたあだ名が『泥人形』――キラキライケメン武将の忠吉おじちゃんとくらべるといろんな方面で差が……。
「ほほう?」
がっちりした肩のあたりから黒い靄が立ち上る。
……あれ?
ひょっとして、オヤジのコンプレックスを刺激しちゃった……感じ?
ひー、地雷は、織田との軋轢で犠牲になった長兄の信康だけじゃなかったのか!?
し、しまったーっ!
事態は収拾するどころか、悪化の一途をたどっていた。
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