第15話 余計なフラグ、立てるなよっ!


「それが?」


 オヤジは口元にうっすらと笑みさえたたえ、ゆったりと問いかけてくる。


「相続のいざこざから、あの乱世が生まれたのならば、それをふたたび起こさぬよう、厳然たる決まりをもうけねばなりませぬ。 

 後継決定についてのゆるぎない掟を作り、けっして武力によって理不尽にもぎ取られたり、権力者の意ひとつで左右されぬようにすれば、跡目争いは減じましょう。 

 それには、『家は長子が継ぐ』と明確に定めれば良いとぞんじます。

『個々の能力・才幹などは慮外とし、どの家でも長子が跡を取る。その跡取りが亡くなった場合は、その長子が後継となる』――ひとたびそう決めてしまえば、争いも起きず、跡目選定もすんなり解決するでしょう」


「ふむ。では、長子相続の範を示さんがため、そなた自ら徳川賜姓を拒み、松平姓にて臣従するということか?」


「はい。もとよりが、他人の野心を刺激するような要因は早めにつんでおくべきでしょう」



 ――大事なことなので、二度言いました!――


 

 オヤジはたっぷりおれをガン見したあと、大きくため息をついた。


「うーむ、それにしても、たった十才で、これほどの識見……臣庶とするには惜しい逸材よ」


 あろうことか悩まし気な顔でポツリ。


「国松、やはり、そなたには竹千代の控えとして、徳川に残ってほしいが、それはならぬのか?」


 ひぇ~~~!

 やめてくれー!


 こっちは必死でフラグ折ってるのに、兄貴の前で褒められたら、すべて台無しじゃないか!


 ほら、なんかおれを見る兄貴の目が虚ろになってきてるだろうがー!


「い、いえ、かような浅慮に過分すぎるお言葉……。そ、それに、この程度のことは、兄上とて当然考えておられるはずです! ね、兄上?」


 青ざめつつ、強引にフれば、


「は? え? ああ……? んん?」


 おれの迫力に押された兄貴は、目をしばたかせながら曖昧にうなずく。


「そうでしょう、そうでしょう! さすが、兄上! そうだと思いました!

 ただ、嫡男たる兄上は、わたしとはちがい、お心のうちを軽々しく口になさらぬよう自重しておいでなのです! さすがです! わたしは気楽な次男坊ゆえ、好き放題言えるのです!」


 ふう……これでなんとかごまかせたか?


 それにしても、クソオヤジめ。

 頼むから、これ以上、変なフラグは立てないでくれっ!




(※ 作中で、国松くんが自分のことを「次男」といっていますが、これは嫡出の二番目の子の意味で、正確には三男です。秀忠には側室腹の長男・長丸、竹千代・国松の三人の実子男子がいましたが、長丸はこの時点ですでに亡くなっています)

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