第9話 千姫
「千、口をつつしみなさい!」
オバチャンがきつくたしなめる。
「なれど、母上とて実の姉と甥を殺されたのですよ? 恨み言のひとこともおっしゃったらいかがですか!?」
ネーチャンはますますヒートアップ。
もはや再会のよろこびをかみしめる雰囲気ではなくなってきている。
「おだまりなさい!」
あららら……。
数ヶ月前に覚醒し、前世の記憶を取り戻したおれだが、うっすらと今世の記憶も残っている。
だが、そのデータの中に、千姫に関するものはほとんどない。
千ネーチャンはおれの生まれる三年前――慶長八年、数え年七才のときに大坂に行ってしまい、豊臣秀頼の嫁になっていたからだ。
なので、実の姉とはいえ、おれにとっては他人同然。
だから、どんな性格かなんて、さっぱりわからない。
……まさか、感動のご対面シーンで、いきなり爆弾かましてくるような女だなんて、まったく予想もしていなかった。
「ひどい……父上は鬼じゃ! 秀頼さま……秀頼さまーっ!」
オバチャンによく似たヒステリックな咆哮が響き渡る。
ギャーギャー泣きわめくネーチャンを見ているうちに、おれの中でひらめくものがあった。
「姉上。姉上はまちごうておられる。豊臣は徳川に滅ぼされたのではありませぬ。己の愚かさゆえに自滅したのです。父上を貶めるがごとき物言いは看過できませぬ!」
完全な部外者だが、ここはおれの目的のため、進んで渦中に飛びこむことにした。
「なんじゃ、このなまいきな
「小童ではございませぬ、弟の国松にございます」
「なるほど、そなたが母上お気に入りの国松か。なれば、先ほどの言、今すぐ撤回し謝罪するならば、母上に免じて聞かなかったことにしてやろう。なれど、せぬなら、いかな弟とはいえ許さぬぞ!」
「これ、ふたりとも止めぬか。はじめて顔を合わせた姉弟ではないか」
若干困惑気味のオヤジが、おれたちのあいだに割って入る。
「いいえ、父上、わたしはまちがったことなど申してはおりませぬ。そして、おそらく兄上もまた同じ思いでございましょう」
「え? わ、わた、私……?」
ムリヤリ引きずりこまれた兄貴は目を泳がせて固まった。
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