第2話 まずは、おさらい


 オバチャンたちの口論バトルが続く中、おれはとりあえず脳みそをフル稼働して、自分が入っている『身体』についての記憶を掘りおこした。


 国松:後の徳川忠長

    慶長十一年(1606年)生まれ

    父は徳川二代将軍秀忠  母は浅井長政・お市の二女、江

    兄弟は、

    千姫(九才上)

    珠姫(七才上)

    勝姫(五才上)

    初姫(四才上)

    竹千代(のちの家光)(二才上)

    和子(一才下)

    異母弟の幸松(のちの保科正之)は五才下(のはず) ☚ 存在未確認


 両親はブサイクなうえ病弱で言葉もどもりがちな家光を疎んじ、美形で元気ハツラツな国松を溺愛したため、家中も竹千代派と国松派に分かれ、次の将軍位をめぐる争いがおきる。


 この騒動は、祖父家康が竹千代を支持したことで一応決着するが、両者にはしこりが残り、国松自身も兄をないがしろにする態度を取り続ける。


 その結果、いろいろマズイことをしでかしたりなんかもしたものの、将軍家の次男ということで、駿河・遠江・甲州に五十五万石の大領をたまわる。 

 このことから、『駿河大納言』と呼ばれるようになる。


 ところが、母・江が寛永三年九月に、父・秀忠が寛永九年一月に亡くなると、状況は一気に悪化。

 頼りになる両親がいなくなったとたん改易(寛永九年十月)。

 そして、翌十年(1634年)十二月、配流先の上州高崎藩で切腹。

享年二十八。


 ……おいおい、勘弁してくれよ。


 さっきオバチャンが「豊臣攻め」って言ってたから、今はたぶん(季節的に)大坂夏の陣がおきた慶長二十年(1615年)。


 ってことは、切腹まであと十八年じゃないかっ!


 やばいって! マジやばいって!


 なんとか幕命による自刃――粛清を免れる道を探さなきゃ……。


 そうだ。

 今から必死で兄貴に媚びまくって、従順な家臣としてふるまえばなんとかイケるんじゃないか?


 だって、異母弟の保科正之は家光にかわいがられて、その死に際しては「息子の家綱を頼む」とまで言われたほど信頼された。


 だから、正之がやったように、徹底して一家臣として頭を下げ続ければ、おれもなんとか――



「母上、ちがいます! 兄上に突き落とされたのではありません! わたしが自分で足を滑らせて落ちたのです!」


 そう、多少あざとくても、兄貴を立てて立てて立てまくり、ときには自分の代わりに誰かをスケープゴートに仕立てあげても、全力でバッドエンドから逃れるんだ!


 卑屈?

 卑怯?

 それがどうした!

 生き残る=正義だ!


 こうしておれは兄・竹千代の忠犬となるべくその第一歩を踏み出したのだった。







 

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