第二十七話 『兵士』

 

「ーーシッ!」

 扉を開けて、すぐ様奇襲を仕掛けてきた男の喉を一閃して裂く。


 本邸宅の兵士達は、かつて幼かった僕が暴走した際に取り押さえた精鋭だと覚えている。正直に言って、その認識に間違いはない。


 ただ一つ間違っているのは『わざと』捕まってあげたって事だけだ。だって、あの時の僕は疲れて眠りたかったから。

 必死に弾丸を撃ち続けて、雄叫びをあげる奴は弱者。折角の弾幕の中、自分の位置を教えるだけだ。


 それよりも黙々と急所を狙い続ける奴こそが、本当に精鋭と呼んでも差し支えない実力を秘めている。


(流石に数が多いな。屋敷の中っていう限定された空間じゃ僕の方が不利か……)


 何の像かわからないけど、銅像の陰に隠れて銃弾の雨を防ぎながら五感を研ぎ澄ます。相手は僕の特徴を捉えているようで、攻撃の手を緩めるつもりはないみたいだ。


 どうしたものかと軽く溜息を吐いた直後に、自分自身に呆れた。別に『生』を固執する訳じゃないのだから、傷つく事に意味はないからだ。


「面倒くさいなぁ……」

 漏れ出たのは感情との別離。無価値になった世界に固執していた『天理』としてのさが

 銃弾の雨の中、無傷でいようと思うのが普通の人間なんだろうけどね。


 ーーガキキキキキキキキキキキキィンッ!!


 別に全てを受けきる必要なんてない。急所に当たるであろう弾の軌道だけを目で追って、二刀の小太刀で弾けば死ぬ事はないし、元々痛覚がない僕の動きは血が流れすぎるまで鈍らない。


「あははっ! さぁ、僕を殺そうとしたんだから、殺されても良いんだよね⁉︎」

「撃て! 弾がなくなるまで全弾撃ち尽くせ!! 化け物に攻撃を許す隙を与えるな!!」

 指揮官の言葉を忠実に遂行する者は一流。だが、皮肉なことだが一流故に悟ってしまうのだ。ーー僕が狙っているのは君だってことに。


「……死ね」

 瞬時に駆け出すと壁を水平に走りながら、僕は銅像の破片の先を鋭角に削った石を投擲する。狙うは弾幕の隙間。


 獲物の眉間を的確に貫くと、同時に残りの標的へ同様に簡易苦無クナイを放った。『ダダダ』っと鳴り続ける銃音の中、とても通る声をしていた男が指揮官だろう。


 二階に繋がる階段の真ん中に陣取っている奴は偽者フェイク。だから、肉の盾にする。一人目を仕掛けて急所を的確に狙う者が減った方向から跳ぶと、瞬時に首を刎ねた。


 背後に回り込んで弾丸を防ぎつつ、男が手にしていた銃を二階の兵士達へ斉射した。ーー七人に命中。ここで弾切れ。


 慌てて飛び出してきた馬鹿の喉元を裂いて、次の壁にする。次第に銃弾の数が減って立ち回りやすくなった為、もう良いかと判断した。


「これくらいなら避けれるしね」

 瞳に怯えを宿しつつもナイフを片手に向かってくる男が一人。同時に背後から挟撃しようと潜む馬鹿を引き寄せた後に、二人の手首を掴んで互いの胸を突かせる。


「ガッーーば、馬鹿な」

「グエっーーえ⁉︎」

 もたれ掛かるようにして倒れる男を右手で払いのけた後、二人が腰のホルダーに差していた銃を引き抜いて、両手を交差させ、カーテンに隠れていた兵士を撃ち抜いた。


「……今行くよ。双火姉さん」

 そう呟いた後、最後に指揮をしていた兵士の心臓を貫く。呻き声一つあげずに絶命した男の顔が、妙に滑稽で少し笑ってしまった。


「フフッ。そんなに怖いなら最初から逃げれば良いのに」

 階段を昇りながら体を触ってみると、自分でも驚いたのだけれど傷一つついて無かった。アレだけの弾丸を小太刀だけで避けられた事実が俄かには信じられなくて、もう一度弄る。


(うん……天音が守ってくれたんだって思おうかな。その方が天理らしい)

 僕は『天理じぶん』の事を既に、劇団の演者を見る気分でいた。残された時間はあまり無いなぁ。

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