第33話:私はなぜ朝陽なのでしょうか?


 朝陽は家に帰ると姉に電話をしていた。

 ソファーに腰かけながら、携帯電話を片手に、


「可愛い妹ですよー。お姉ちゃん」

『んー。どこかで聞いたような声? 誰だっけ』

「貴方の妹ですってば! たまにはそちらから電話くらいしてください」

『医大生って忙しいの。研修、勉強ってやることは山積みなわけ。アンタみたいなダメ妹の事を思い出す、ゆとりすらないわけよ』

「そ、そこまで言わなくても……」


 久しぶりに電話をしたら、いつものように罵詈雑言される。

 

――多少は慣れてますが妹は心を傷つけられる事に弱いのですよ。


 打たれ弱い紙装甲な妹には優しくしてもらいたい。


『朝陽が家を出てもう何ヶ月だっけ? すっかりとアンタのことを忘れてしまった』

「たった三ヶ月ですよ!? 私の存在を忘れないで、ぐすっ」

『……あまりにもアンタの話題が家族間で出なさ過ぎて。リアルな話、アンタの事を心配している家族は多分、今、いないから』

「ガーンっ!?」


 田舎暮らしで自由奔放にしていると家族には思われている様子。

 ここに暮らし続けると言う選択をした時、あっさりと認められた。

 それ以来、家族から連絡が来ることもなかったけど……。


「や、やだなぁ。パパやママは心配くらいしてるでしょう?」

『全然? ちなみに親戚には朝陽は家出したと言うことで話を通しているわ』

「ひどい、ひどすぎるよ! 大和朝陽は大和家に不必要ですか!?」


 存在すら否定って地味にきつい。

 

「ぐすっ。家族愛が足りてない。大和家は冷たいですねぇ」


 朝陽は落ち込みながら涙ぐむのだった。


『その様子だと元気みたいね』

「今、凹まされたけど!」

『こんなの挨拶代わりみたいなものでしょ』

「うぅ。まぁ、元気ですよ。現在、彼氏もできてすこぶる順調です」

『確かクマの権三郎クンだっけ?』

「人間だよ!? クマさんじゃない。一度、写メを見せたでしょうに!」

『未だにアンタに彼氏ができた事実が私の中になくてさ。ホントに付き合ってるの? ただの友達なのに、アンタが勝手に思い込んでるだけだったりしない?』


 信じてすらいない。


――うぐっ、そういう言われ方は精神的にダメージが……。


 確かに緋色からちゃんと愛してるって言葉にされてない。

 態度から感じることも大事だけど、愛って言葉にされないと不安なのだ。


「こほんっ。話を変えて、ちょっと聞きたいんだけど」

『え? そこで惚気たりしないワケ? マジでその相手に利用されてるだけとかないわよね? 大和家令嬢の地位だけが目当てとか。アンタの無駄に大きいおっぱいだけが目当てとか? そんな展開なら笑えるけど、同情もするわ』

「……お願いだから深く追求しないでください」


 都合の悪い事には触れてほしくない。


――惚気るよりも、緋色の愛を確認したい現状なのです。


 それはともかくとして、朝陽は姉に聞きたかったのだ。


「お姉ちゃんの名前が乙姫なのに、私はなぜ朝陽なのでしょうか?」

『いきなり何よ?』

「名前の話ですよ。朝陽って名前の理由とか知らない?」

『かぐや姫か髪長姫|(ラプンツェル)とでも名付けて欲しかった?』

「かぐや姫はともかくラプンツェルは素敵だけど私の名前にしてほしくない。普通にいやだよ、そんな読ませ方。どこかにいそうだけども」


 あまりにもキラキラネームにされると人生が大変そうだ。


『じゃあ、亀で。亀姫とか亀子とか』

「竜宮城の繋がりでそっち!? 私は亀じゃありません!」

『文句ばかりねぇ。朝陽でいいじゃない。日本の朝代表。低血圧で朝に弱いけど』

「……何で、私の名前が朝陽なのか聞いたことがある?」


 率直な疑問に「アンタが生まれたのが早朝だったから」と言われる。


「ナンデスト? それだけの理由ですか」

『それ以上の理由はない。あー、朝陽が綺麗だったね、とか後付けの理由もしやすそうだし? 何よ、撫子みたいにネタで名前を付けられたかったワケ?』

「あの子の場合はそれに似合う美人さんだからいいじゃん」


 もっと何かあってもよかったような。

 どこか特別なものを期待していた。

 物足りなさを感じていると、フォローを入れるように、


『まぁ、お母さんなりに考えたらしいわよ』

「え?」

『どんな時にも朝はやってくる。大変な時でも希望を抱いて育ってほしいと込めた願い。その想いを裏切り、今やヘタレなダメな子に……今頃、母はどこで育て方を間違えたのかと、悲しんでいることでしょうね』

「い、言わないで。ダメな子扱いしないで。こっちでアルバイトを頑張ってますぅ」

『ニートから卒業した程度で胸を張らない。アンタ、この先どうしたいわけ?』

「あ、あのですね。その話は」

『この先のアンタ自身の生き方ってやつをさぁ……』


 それから姉の説教に変わり、朝陽は日付が変わるまで説教をされ続ける事に。

 

――うわーん、藪蛇った!?


 姉に現実を思い知らされながらも、


――子供につける名前って、いろんな想いがあるんだよねぇ?


 名前に込めた親の想い、その意味が気になるお年頃です。

 いずれ自分も、生まれてくる子供に名前を付ける日がきっと来るのだから――。

 

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