第34話:私は素敵なお嫁さんになれますか?



 今日はお店の定休日。

 朝からのんびりと朝陽の家で緋色と過ごしていた。


「いい調子じゃん。私もやればできる」


 昼食づくりのためにキッチンで慣れない手つきながらも料理を頑張る。


「緋色。もうすぐご飯だよー」

「……今度こそ、まともなものを食わせろ。失敗作はいらん」

「ひどっ。成功とは失敗の積み重ねで出来るものなんですよ」

「ちょっとは成功してからいいやがれ」


 料理の練習相手はいつも緋色だった。


「自慢じゃないけど、私は“やればできる子”と周囲から言われてきました」

「それ、本当にダメな奴への常套句だけどな」

「ひどいっ。私はポジティブに捉えてたのに」


 何だかんだ言いながらも付き合ってくれる。

 フライパンからお皿に移しかえて、仕上げれば完成だ。


「じゃーん。完成しました。朝陽特製オムライス・改3」

「だから、オムライスはオムの部分を別にしておいてくれ。判断がつかん。それで懲りずにまたオムライスか。こればっかりだな」

「私の必殺料理〈スペシャリテ〉だもの」

「まとにもできるのがそれだけなんだろ」

「むぅ……」


 正確に言うと、朝陽は卵を使った料理全般は得意な方である。

 親子丼、オムレツ、だし巻き卵に茶碗蒸し。

 どれも彼女にしては食べられる料理を作れる。


――私と卵さんの相性はベストマッチ!


 シンプルに扱いやすい食材だからこそなのだが。

 とはいえ、一番好きなのはオムライスでありよく作っている。


「オムの完成度が無駄に高いせいで完全にパッケージ詐欺レベルの代物だろうが。毎度のことながら中身の確認ができない」

「えへへ。今回は大丈夫です。ちゃんと味見したし」


 せめて定番料理くらいは上手になりたい。

 何度も練習しているので、今回のは自信作だった。

 

「さぁ、召し上がれ」

「……いただきます」


 躊躇うことなくスプーンですくいながら口にいれる。

 正直、緋色も“まずい”と思うほどのレベルではないのは分かっていた。


「どうです、朝陽ちゃんの手料理は?」

「……初期の頃に比べればマシか。ちょっとケチャップの味付けが濃いけども、十分に食べられる味だ。最初の頃に比べたら、野菜の形も綺麗だし成長している」

「やったぁ。褒められた」


 緋色は「褒めてはいない」と思いつつ言葉には出さない。


「美味しい?」


 何かに期待するような瞳。


「その言葉を引き出すにはまだまだ頑張れ」

「きゅーん。はい、努力します」


 それでも、文句は言わず残さず食べきってくれる緋色なのである。

 

――ふふ、素直じゃないなぁ。


 にやけそうになるのを我慢しながら、


「料理スキルを身につけた私は素敵なお嫁さんになれますか?」

「レベル1だったのが、レベル10程度になっただけだろ」

「えー!? ちなみにレベルの上限は?」

「255くらいか?」

「中途半端だ!?」


 そして、先は果てしなく長い。


「昔やったゲームの上限がそれだったのを思い出した。とにかく、先は長いな」

「ですかぁ。でも、料理が楽しく思えるようになってきたのですよ」

「そりゃよかった。見ている側をハラハラされる事もなくなりつつあるのは良い事だ」

「奈保さんの指導のおかげです」

「母さんも教える時は妙に楽しそうだな」

「初心者へ丁寧に教えてくれて助かりました」


 朝陽はやる気を見せながら、

 

「いずれ、緋色に美味しいと言わせてみせる」

「……はいはい。このコーンスープは美味いな」

「それは市販品だからっ。手料理で美味しいと言わせたいの」


 緋色を見返すためにもっと努力しなければいけない。


「私もお腹すいたぁ」


 そろそろ自分のお昼ご飯の準備を始める。


「さぁて、私も食べよっと。冷凍食品のエビドリア!」

「……おい」

「ち、違うんですよ。自分のために料理する気力がね」

「言い訳するな」

「だ、だって、疲れちゃうんだもん。レンジでピッと簡単にできる方が楽でしょ」


 何事も集中力が続かない、ダメダメな朝陽は変わらない。

 エビドリアをレンジから出しながら昼食をとる。

 そのまま和やかな雰囲気で食事を終えるのだった。


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