第96話:妹が可愛くて素敵だと認めて何が悪い?
朝の校門での出来事が学内全体に広がり騒然となるのも時間の問題だった。
恋愛関係の兄妹が開き直っていちゃついている。
噂は瞬く間に広がりつつあった。
それをどこかで見ていた犯人は相当に焦っているだろう。
「兄さん。お昼にしませんか?」
「いいね。行こうか、撫子」
昼休憩、撫子が普段通りにクラスに現れた。
逆に、動揺するのはクラスメイト達。
数日前まで噂に怯えていたとは思えない。
「ま、待って。どういうことなの、ふたりとも?」
生徒のひとりが撫子達を引き留めて声をかける。
「どういうこととは?」
「噂だとキスしてたとか。あの噂、本当なの?」
「ストレートに聞いてきますねぇ。ですが、いい機会かもしれません」
彼らに向き合うと撫子は隠し立てすることもなく言い放つ。
「はい。その件は真実です」
「まさか、ホントに……?」
「えぇ。噂では恋愛関係になってキスをしていた、と。それは事実ですよ」
ざわめく教室内、誰もが驚きの表情をしてみせる。
「今さら何を騒ぐ必要があるんですか?」
「だ、だって……貴方たちは兄妹でしょ」
「私と兄さんは愛と言う絆で結ばれています」
「そうだな。俺が撫子を愛しているのは事実であり、偽りのない気持ちだ」
猛も認めたことでざわめきはピークに達する。
これまで絶対にそこだけは認めようとしてこなかったのに。
「マジかぁ!? ついに、大和が認めやがった!?」
「お、おいおい、大和の野郎、どうしちゃったんだよ」
「噂通りだっていうのか」
「私も、信じられないんだけど」
非難の声に対して、はっきりとした声で反論する。
「それが何か?」
「何がって異常じゃん! 普通じゃない」
「兄妹が愛してはいけないと言うんですか?」
「一般常識なら当然だと思う」
「一般常識? ふふっ。面白いですねぇ。そんなもの、私達の間にはまったく関係のない事です。人間とは異性に惹かれるもの。その欲望は誰にも止められません」
うっとりとした表情で彼の手を握り締める。
「幼い頃から慕い、愛した人と結ばれたいと思う事の何が罪でしょうか」
「あ、愛する相手がお兄ちゃんはまずいでしょ?」
「そうでしょうか?」
「誰も認めたりなんてしない」
「いいえ、神様だって認めてくれますよ。愛してはいけない人と結ばれたい。それが人間の性なのですから。誰しも、危険な恋ほど酔いしれてしまいます」
見つめ合う二人の姿に、教室内の生徒たちは唖然としていた。
「や、大和君。本当に撫子さんの事が好きなの?」
「あぁ。好きだよ。ずっと前から俺は撫子が好きだった」
「はっきり、認めちゃった!」
「そうだ、俺はシスコンなんだよ。もう誰にも止められない。ずっと隠していたのに、バレたらしょうがないな」
「いや、全然隠してはなかったけどね」
「うん。隠してはなかった」
「……ですか。それはともかくとして、俺は撫子が大好きなのさ」
冷たい視線を向けられても何のその。
皆の前に立ち、撫子の肩を抱きながら、
「撫子は誰よりも魅力的な女の子だ。世界で一番可愛い女の子は大和撫子だ!」
堂々と皆の前で宣言する。
クラスメイトが呆然として立ち尽くしてしまう中、熱い思いを言葉にする。
「撫子の魅力を語れと言われたら俺はいくらでも語れる。まずはこの綺麗な黒髪、日本人ならば誰しも憧れるこの妖艶なる黒髪。艶やかさに誘惑されていると錯覚するような綺麗な黒髪は撫子以外にありえない。黒髪フェチの俺にはたまらない」
長い髪を撫でながら猛は言い放った。
「美人な容姿もそうだ。幼稚園の頃から撫子の美しさは完成されていたと言っていい。小さな頃からこの子は美人になると誰もが信じていた。そして、現実にそうなった。その成長を誰よりも傍で見守っていた俺が好きにならない方がおかしい!」
まさに唇が近づくほどに距離を詰める。
あまりにも生々しい光景に「きゃー」と女子が騒ぐ。
「……妹だから? それがどうした。俺と撫子の間にある愛情は誰にも止められなければ、誰に邪魔される権利もないのだ」
「あのー、大和君。批判されるのが普通だってば……」
「人は誰だって異性を求めて、好きになる。それがこんなに可愛くて素敵な女の子なら好きにならないわけがない。まさにアフロディーテ、女神のような存在なら尚更だ。この愛が罪だと言うのなら、それは美しすぎる撫子の妖艶さこそが罪だ!」
「お、おーい、大和。ラブポエマー大和っぷりがさく裂してるぞ」
愛を語る猛の姿に、ほとんどの人は呆れ気味だ。
こんな彼を誰が想像しただろうか。
シスコンではないと言い続けてた彼の本性。
あまりの豹変っぷりに皆は困惑する。
開きなおられると、どう弄っていいのかもわからない。
「妹が可愛くて素敵だと認めて何が悪い?」
「程度が問題だと思うの」
「それならば俺は重症だな。そうだ、俺はシスコンだよ。認めようじゃないか。大和猛はシスコンであり、撫子が大好きで仕方がないのだ、と」
「マジかよ、大和。お前、そこまで撫ちゃんのことが?」
「漫画やドラマの世界を見てみろ。兄妹が恋愛をする事に何の問題もないだろ」
「あ、あれはフィクションだからね、猛さん?」
「そうよ、現実とは違うのっ」
誰が意見をいくら言っても、凹むことなく妹への愛を語り続けていた。
――ねぇ、兄さん、気づいていますか?
撫子は内心、ある意味で成功したと喜んでいた。
――何も捨てずにすべてを取ると言いましたが、このクラスの女子の好感度は捨ててしまったようで、もう誰も貴方を好意の対象には見てくれませんよ?
すっかりドン引きしてる姿を見て、結果オーライだと喜んでいた。
そんなことに気づいていないのか。
「俺の本性はシスコン属性だ。撫子至上主義だ。妹以外に愛した女の子はいない!」
そう言い切ったところで、ようやく、“彼女”は言葉を口にした。
「そ、それは間違いだと思うの。兄妹は恋愛をしちゃいけないんだよ、大和さん」
控えめな性格で、小さな声ながらもはっきりとした意思を感じ取れる。
「――間違えた考え方は正すべきだと私は思うの! 貴方達は間違えている」
その発言はまさに猛に脅迫してきた相手と同じ言葉。
「……やはり、貴方だったんですね。“椎名眞子”さん」
この騒動の決着をつける相手。
椎名眞子に対して撫子は口元に笑みを浮かべて言った。
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