ドーター
「遅すぎ」
茉優が小さな声で言った。
「おぃ、ひょっとして、あのLINEだけ?何時間前の話しやね?」
「これ、保護監督者遺棄とか放棄とか、なんかやろ、あかんやつ、あかんやつ」
茉優は相当寒かったのか、両腕を躰に巻きつけ、回したまま、指だけで佑を指し示し言った。
「もう俺には、親権ないんやけど、、」
「出た出た、親権ない攻撃。それより、はよ入れて、おちっこ漏れそうやし」
「また声でかいし、ここの廊下めっちゃ響くから、、」
「それより、
「それ、宜本さんやろ、今月この棟の当番さんやから、宜本さんって今、本部の総務の部長やからさぁ、、、あんまり言えへんね」
「でも、あのババァ、只の嫁やろ、警察官ちゃうんやん、メモ奪還。メモ奪取。損害に顧みずミッションを実行せよ。ラジャー。」
「茉優、声でかいつーの、ここの廊下めっちゃ響くから、、」
「でも、これ公務員宿舎やろ、前のよりレベル上がってるやん、きれくなってる。大分業社と談合とかいうのやってんにゃろTVでやってた、TVで、はよ捕まえろよ」
古いタイプのキーでドアを開ける佑。
「四階風ピューピューで、ちょんべん漏れそうやったし」
ドアが開くやいなや、茉優は、靴を慌ててはきすてて、勢い良く佑の家に入っていく。
ところが、、、、。
「
茉優は大絶叫。
佑が気を利かして、買って帰った、明日の朝の分のコンビニ弁当をティーパックのウーロン茶とともに茉優に与えると、ふたりとも、どうにか一心地ついた。
「脇田くん、と上手くいってへんのか?」 と佑。
脇田とは、佑の元嫁の杏奈と再婚した茉優の継父だ。同じく
「親権ないんやったら関係ないやん」
「ちゅーわけにも、いかへんやん、やっぱり気になるやん」
「じゃあ、もっとLINE頻繁にチェックせーよ。茉優もうちょっとで四階でおちっこ漏らしながら凍え死ぬとこやったやん」
「だから、マジ困りやったら、直接掛けろってLINEしたやろ」
「茉優もそんな暇ちゃうね、リアル未読スルーやん。なぁあの育ての親と職場であったら、何て呼ぶん?」
「脇田、、、」マジで、困る佑。
「ワキタぁ?」したり顔で問いかける茉優。
「さんかな」
「オヤジ、なにビビってんね、えっ後輩やろ、君でいけよ、こういう男女の肉体関係って弟とかいうねんろ」
頭抱える、佑。
「まぁ、会わへんけどな、おとんさぁ、今これでも、捜査一課の刑事やで」
「出た出た、捜査一課攻撃。制服のときは、みんな同じ大事な市民守る仕事してんねんとか酔うたびに泣きながら言うてたくせに、この変わり様、TVでやってたこれが汚職の根幹の原因やねんな、根は深いわ」
「汚職は関係ないし」
「出た出た、関係ないし攻撃。まぁ、どうあがいても、あの脇田いうのはおかんの男でしかないな、おじいちゃんの腰巾着やし、何や言うたら、お義父さん、お義父さん言うとんね、見苦しいどぉー、まだオヤジのほうが根性あったわ」
「うーん」
佑は返答に窮す。
「でも、さぁ脇田くんも、難しいところでさ、おかんの家って警察一家なん知ってるやろ、茉優のおじいちゃんさぁ、府警のOB会のもう辞めはったかもしれんけど、なんや宝樹会やったっけ、そこの名誉常任なんたらやで、」
「知ってる、おじいちゃん、警察庁長官もビビる黒幕ねんろ」
「まぁ、黒くはないけど、白幕かな」
「それ、いっこもおもんないし」
「面白く言う気ないし」
「出た出た、面白く言う気ないし攻撃。それよー離婚する前とか言うてたやん」
「あのころ、辛すぎて、記憶ないねん」
「出た出た、記憶ないねん攻撃。あの離婚する直前ってやたら痰絡ませてたんやん、ガーとかゴーしか言うてなかったし、家庭内騒音男やったやん」
「あの頃、家族とか家庭内の人間関係も絡んでたし」
「うわ、出た出た、典型的なオヤジギャグ。せやけど離婚してちょっとオモロなってるやん。レベル上げたん?」
「おーちょっとだけ」
「うそやん、かわいそうやし、褒めたら、調子乗るタイプ、おかんが機会あったら調べとけって言うてたけど、マジでこの家、女っ気ないな、ザ・おっさんズ・ハウスなってるやん」
「おかんそんなん言うてんの?」
「これ、あれやろ、TVでやってた、孤独死するやつちゃうん、部屋にあるもん、TVの孤独死の部屋と一緒一緒」
「おとん、まだ定年にもなってないのに」
「TVで言ってた、それが、根幹の原因やねんな、根は深いわ」
「それ、天丼」
勢い良く、茉優を指差す、佑。
「当たり前やん、茉優、トーク、小学校のときから、ハイ・レボーやで」
「吉本のNSC行けよ」
「あかんね、茉優、罰ゲーム的な辛子シュークリームのリアクション芸とか生着替えとかは無理やし、水着も茉優的には、やる気あるけど、事務所的にNGやから権利関係エグいやろ、全著作物の二次使用料は全収入の5パーもらうで」
頭を抱える佑。
「そのおじいちゃんの宝樹会関係で、さぁ。四條畷でゲロったん」
「ゲロ!?」
「あのおじいちゃん
「あーあー思い出した。おじいちゃんに鹿児島のやたらきつい芋焼酎飲まされて吐いたやつ」
また、勢い良く茉優を指差す佑。
「トイレのドアの前で、間に合わんと大噴射したやつ」
「あの日さ、渋滞やったやろ、おとん、めっちゃ疲れてたねんや、前の日は二勤やったし」
「あんときさぁ、おじいちゃん笑ってたけど、おばあちゃんマジで怒ってたで」
「そんなことないわ、お義母さん、めっちゃ優しく布団敷いくれはったぞ、お義父さんがねえ、ごめんねぇ、言うて」
「あほや、気づけよ、おばあちゃん二回拭いても、匂い取れへんいうて、目マジで怒ってたで。決戦前夜とか一触即発とかいうやつやな。だって、次の日の朝も廊下ゲロ臭かったもん」
「うそー、いつもやったら、大体わかんねんけど、あの日、急に世界がグラグラ周りだしてさ、とにかく急やってん、それに、おとんさぁ、酒の中でも焼酎は特に弱いねんな、あんまり旨いとも思わんし」
「じゃあ、断れよ」
「ちゃうね、おじいちゃんのさぁ、"
「黒幕やし?」
「そうそう」
「警察庁長官狙撃事件?」
「それは全然違うけど。あれ東京やから」
「あれ、茉優やで」
「うそー」
「だって、チャリで逃げてんろ、茉優、チャリしか乗れんもん」
「お前生まれてないやろ」
「焦った?」
「別に」
「出た出た、別に攻撃。焼酎あかんのに、なんで、おかんの梅酒は飲むん?あれも焼酎やろ」
「梅酒は、お前、サイコーやん」
「えっ、サイコガンダム?」
「えっ、サイコガンダム?、どっちでもええことは覚えてるんやな」
「なに、言うてんね、オヤジに付き合わされてどんだけガンダム見たと思うてんね、あれやろ、おかんの梅酒勝手に飲んで、マンションの駐車場ガンダムになったやつ」
「確かに駐車場ガンダムに、なったなぁ」
また茉優を指差す佑。
「あれさー、実際十階からガンプラ全部投げたん、おかん、
「二秒で管理人さん来たやん」
「来たな」
「ほんで、オヤジ、駐車場で這いつくばってガンダム拾ってたやん」
「三日かかったし」
「あれさ、
「知らんねー、重くんって松浦さんとこの次男やろ?、松浦ってゴミ出し、むちゃくちゃのムカつくやつやったし、ええねん」
「あれさぁベランダから、茉優とおかん、おとん
「お前ら、性格最悪やし」
「おかん、言うてた、恥ずかしいーて、駐車場行けへんし、買い物困るわー、言うて」
佑、大きなため息一つ。
「でも、近所の子供、手伝ってくれたで、おとんのこと」
「知ってる、たっくんと陽ちゃん」
「そーそーそんな感じの名前やった」
「でも、たっくんと陽ちゃんのお母さんは、マジで睨んでたで、おとんのこと、警察官やのに、警察官やのに、言うて」
「今度会ったら、言うといて投げたんは、和才杏奈やからって、ああ、今は、脇田杏奈か」
「たっくん言うてたで、
「正確には、遺失物取得やけどなもう破損してるから、、、ピースコンで塗装したプラモ全部おまえ木っ端微塵やがな」
「コッパ!?」
「そうコッパミジン」
「シャア専用コッパ!?」
「そんなんないし」
「木っ端微塵ぐらい、茉優にもわかるやん、空気読めよ」
佑は、またもや大きなため息。
「今も、杏奈、梅酒飲んでんの?」
「お取り寄せグルメ番号320058」
「えっ?」
「お取り寄せグルメ番号320058」
「なにそれ、通販!?」
「樽、樽、クロフツの」
「えっ、ミステリなん」
「毎月来るねん、樽で」
「へー、でも、おかんがさぁ酔ってるところみたことないやろ、どうなってるんやろうなぁ?」
「今はな、変わってん」
「えっ」
「お取り寄せ快適番号742110」
「えっ」
「お取り寄せ快適番号742110」
「なにそれ、同じ通販なん!?」
「布団、春夏秋冬、シーズンごとに布団が送られてくるねん」
「へー、脇田も大変やな。それよりさ、もうあかんで、こんな外泊、一応さ、おとんと茉優さ月枠の面会の時間とか方法とか法的に制限されてんねん」
「出た出た、警察官やのに、サングラスとマスクして裁判所通ってたやつ。月枠って、クレジットカードの限度みたいになってんの!?」
「そうそう、だけど民事、民事」
「あかんあかん、全権利剥奪やろ」
「そうなのよ、親権はね」
「
「えーなに、それ?」
「
「そうそう、そんな名前やったな、杏奈の弁護士さんやろ」
「今でも、時々来はんで、幣原三十七、あれは、できてるな、おかんと。おとん、弁護士なしやってんろ」
「そうそう、これでも、警察官やん、法律のプロやろ、いけるかな、思てん」
「幣原法律事務所、東大阪市池田22-9 全権利剥奪」
「そう、大惨敗やったな、圧敗」
「もっと本気でやれよ」
「やってた、ちゅーの」
「ちゅーの、やて、もう誰もそんな言うてないのに、もう終わったぞ、栄光の90年代は。空気読めよ」
佑再び、ため息。
「でも、あかんで、外泊は、なんて、杏奈に言うねん」
「え、それもしかして説教」
「説教ではないけども、、、ここに泊まったいうことになったら、おとんが怒られるから」
「出た出た、身の保身攻撃。これが大惨敗の根幹の原因やねんな、根は深いわ、あれちゃうん、あのおとん土下座したやつ。」
「えっ、なんで、お前知っての!?」
「当たり前田のクラッカーやん」
「おまえ、いくつやね、俺でも生まれてへんで、そのCM」
「おとん、土下座したやつわ?」
「お前、あれ、見てへん筈やで、、」
「茉優主演の家政婦はミタやがな、エガちゃんにキスされた橋田壽賀子の?」
「それ、主演も脚本家も違うドラマやから、、。あれもさ、怖いおばちゃん来たやろ、誰やったっけ、髪の長い男の子のお母さん」
「
「そうそう、そんな名前やった。なんか知らんけど、あの頃、東梅田署やったんやん、勤務。なんでか知らんけど、あのおばちゃんさぁ、署長の藤田さんの名刺持ってんねん、ほんもんかどうか、ちらっとしか見せよらへんかったけど、」
これは、結構茉優も嫌な思い出なのか、茉優も口が重い。
「ほんでさ、お母さんがビビってしもうてさ、あなた、土下座して、土下座して、、言うて、
「根性出して、頑張れよ、一応、日本は、喧嘩両成敗やろ」と茉優。
「まぁ、土下座も"流れ"やったけど、」
「あれ、茉優も"流れ"やったから」とちょっと悪びれた感じの茉優。
「でも、あれは、あかんぞ、マジで」
「ちゃうね、口でバー、言い出したんは、こっちやけど、ほら、学校って教室にでっかい三角定規あるやん、あれで、室屋、茉優の肩に袈裟懸けで切りかかった来たから」
「女子なんやし、
「茉優、座ってたやん、ほら昼の再放送の時代劇の据え切りとか、言うやつやろ。その後さ、手近なところに硬いものがなかったんやな」
「手近って、凶器探してるやん」
「"流れ"やな」
「ほんで、ヘッドロックして、思いっきり、教卓の角に其の子の頭ぶつけたんやろ」
「茉優も、あれは焦ったでぇ、あんな血出るって知らんかったし」
「クビから、上は、めっちゃ出るねん」
「それ、警官のインサイドジョークなん」
「髭そってたら、男は、皆気づくの」
「室屋、脳震盪で気失ってさ、ほんで、血はピューって出るし、あっという間に、水たまりみたいになるし、そこで、しゃがんで、二本の指で室屋の血止めてたん、茉優やもん」
「あかんぞ、あれは」
「"流れ"やな」もう一回、茉優。
佑の深い溜め息。
佑の嫌な思い出を連発してたが、自爆した感じの茉優を見て、佑もどんな表情を浮かべたらいいか、わからない。
誰にでも、嫌な思い出は、絶対に人生にはある。
また、茉優を勢いうよく指差す、佑。
「だから、言うたやろ、多分、茉優、罰ゲームのリアクションとか出来ひんにゃろな、あと熱湯風呂も、あ、風呂シャワーでええし、ベッドは茉優やで、和才佑くんは、足曲げてソファやな。膝痛い痛い、なるやつ」
「えー」
「当然の権利やろ、廊下で羞恥放置凍死未遂、犯してるんやから、現職の脇田警察官に言うたら即逮捕やで」
「おとんも、これでも現職やがな」
「もう茉優、眠いし、これでも、頑張って、おとんの話し相手なってやったほうやで」
茉優は、スタスタ歩いて、当然のごとく佑の寝室に入った。ベッドカバーをめくる音がしたら、、、、
「ベッド、
茉優の大絶叫が家中に響いた。
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