佑の悪夢 2。
たすくは、暗い夜道を歩いていた。どこを歩いているのか、見当がつかないが、どこかは、知っていた。
それも、とても良く知っていた。
生まれ育った街、ひらかたを忘れるわけがない、それに、たーちんさんが、全部携帯で教えてくれた。
たすくは、ゆっくり、歩道を歩いていた。
たーちんさんが、教えてくれた場所に向かって。
たーちんさんが、教えてくれた場所の手前、車道が少し濡れていた。
たすくには、雨が降った記憶はなかった。
つんっと、鼻をつく揮発性の匂いがした。
丁度、街灯が照らしたまあるい円形の光の外のふちにバイクが倒れていた。
匂いはバイクに近づくほどきつくなった。
バイクはひどくこわれていた。
たすくには、誰のバイクかわかった。
バイクの先に人が倒れていた。
バイクに乗っていた男だろうか、ひどい怪我をしているようだった。
たすくは、ゆっくりと、バイクを越えて、怪我人のところに歩いて行った。
倒れている男は、メットを被っていなかった。ひどい怪我をして、動けないようだった。
血の池がその男の周りに出来ていた。
転倒したあと、慣性の法則か、転び方が悪かったのか、ハイサイドでバイクから投げ出されたか、バイクの先に滑っていった様子だった。
たすくは、誰がこうしたのか、知っていた。どうしてだか、わからないが、知っていた。
これは、悪い夢なのだ。
早く覚めたほうがいい。
夢は覚めれば、終わる、早く、終わりにしたい。
バイクで転倒して大怪我をしている男は、時折、うめいたり、もぞもぞ動いていたが、自分でどうにかできる様子ではなかった。
こんなひどいバイク事故を見たのも、けが人を見たのもはじめてだった。夜の車道の暗闇が、ひどい部分をかくしてはいたが、それが余計に怖かった。
TVや新聞では見せてくれない。
学校でも教えてくれない。
それにたすくとこうせいは、あまりちゃんと学校に行っていない。
男は、車道の脇まで、飛ばされていた。
たすくは、しゃがみこんだ。
そして、この大怪我の男の両脇に手を入れると、ズルズルと、車道の真ん中まで引きずっていった。
人間がこんなに重いとは知らなかった。これは、罪の重さなのだろうか、悪夢だから重いのだろうか。
人とは思えなかった、石か、岩か、化け物か。
そうだ、こいつはみんなが恐れる化け物なのだ。
これは、良いことをしているのだ。たぶん、それに誰にもわからない。
たすくは、引き摺ってけが人を車道の真ん中まで運んだ。
そして、そのままにして、来た道をそのまま、歩道を歩いて、帰っていった。
壊れたバイクを越えた。
ハイビームの対向車両が、走ってきた。
たすくとすれ違った。ブレーキ音がしたかな?
たすくが覚えているのは、ここまでだ。
さっきの位置で嫌な音がしたことは覚えていない。
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