攻城大陸

はじめに

『攻城大陸』には最強のダイナミズムがある!

 巨大ロボットが登場する娯楽作品エンターティメントに、一番大事なものは?

 精密でリアリティにあふれた世界観?

 異世界の設定や戦争の構造、経済や流通の描写?

 濃密な人間ドラマとかわいいヒロイン?

 えて誤解を恐れずに断言しよう。


 ロボットモノにとって、一番大事なものはだ。


 ながやんがそう思うのであって、他のものがもっと優先順位が高いというのは、それは素晴らしいことだ。ただ、あなたが好きな作品の『巨大ロボットゆえのよさ』は、このダイナミズムとは無縁ではないかもしれない。

 ダイナミズムとは、直訳すれば『迫力』であり『力強さ』や『躍動感』だ。

 そして、覚えててほしいことがある。

 揺るがない現実、前提条件として頭の片隅かたすみに置いておいてほしい。

 小説といった文芸の媒体では、こうした『動きそのものが持つ魅力』を表現することが非常に(不可能とは言いたくないが)難しいのだ。よく定期的に『』などという話が流行はやる。自分自身、編集部のプロの編集者にはっきりと『ロボはハードルが高い』と言われ、十本以上の作品が企画段階で消えていった。


 文芸とは、創作者の価値観や感覚、感情や感動を『文章を書く技術』で受け手に伝える創作だ。そして、受け手(読み手)は、それを自分の読解力で再構築する……つまり、創作者が生み出す時と、受け手が楽しむ時の合計二回、姿が変化するのだ。

 故に、プラモデルのように受け手が自分で形作ることで、その興奮が増す。

 そして、よいプラモデルは受け手の組み立て工程自体を娯楽にしてしまう。

 その上で、完成した時の満足感、これが読後に達成感としてあるのが名作と言えるだろう。


 では、何故なぜダイナミズムを第一とするロボットモノが小説に不向きなのか?

 厳密に言うと、不向きではない。

 小説で表現できないものがあるというのは、そう言う本人だけの世界だ。創作の可能性は無限であり、過去に何度も技術的なイノベーションはあった。ライトノベルというジャンルも(昔はゲームノベルなんて言ってたりした)その流れで生まれてきた歴史の若い書物なのである。

 ただ、小説よりもロボットモノに向いてる媒体の方が、圧倒的に多いのだ。

 そして、そのアドバンテージはあまりにも大きい。

 言うなれば『小説でもダイナミズムに溢れたロボットモノは生み出せるかもしれないが、それより遥かにあらゆる面でローコストなのが漫画、アニメ、ゲームである』ということだ。そして、そのこととダイナミズムは無関係ではない。

 ダイナミズムは、ストレートに直感で受け手が感じる感動である。

 寂寥せきりょう旅情りょじょう憤慨ふんがい羨望せんぼうなどは、思考で受け手が再構築した中からでも生み出しやすい感動だ。

 ダイナミズムは、再構築する段階で受け手が千差万別なため、常に同質のものを小説では提供できない。よってロボットモノに向かない、そう断言する人が多いのも事実だ。一方で、ヴィジュアル的な要素の大きい漫画、アニメ、ゲームは『』が圧倒的に多いため、見た瞬間に直感でダイナミズムを感じることができる。しかも、不特定多数の違った人間に、同様の気持ちを持たせ易いのだ。

 文芸に不可能はない。

 だが、難関や難問があることは確かだろう。


 ひるがえって、何故ロボットモノにダイナミズムが一番必要という話で、絶対に欠かせないのがここのえ九護リュールー先生の『攻城大陸こうじょうたいりく』だ。本作は、ファンタジーな異世界に飛ばされてしまった主人公が、幼馴染の女の子を守って竜騎士となって戦い、その中で城は決戦時に巨神へと変形する。

 この作品は、月下げっかゆずりは先生の『廃惑星はいわくせい地球の歩き方』や鉄機てっき 装撃郎そうげきろう先生の『墜奏のエルンダーグ』にも共通する、非常にダイナミズムの表現において有利な条件が込められている。

 デカい。

 馬鹿デカいのだ。

 エルンダーグは150m。

 廃惑星のサンダー・チャイルドが300m。

 そして、攻城大陸の城は1,000mを超える。

 正に、デカァァァァァイ! 説明不要! である。

 巨大ロボの『巨大』を極端にすることで、描写のスケールが高まるのだ。ガンダムならば歩いて都市戦でビルに身を隠せるだろう。だが、ガンバスターやイデオンなら都市そのものを消し飛ばすことができるのだ。

 ヴィジュアル媒体が持つ、一目見ての『凄え!』『かっけえ!』『燃え!』というダイナミズム……そのアドバンテージがない文芸で、巨大ロボがただ巨大であるだけで価値がある。勿論、10mクラスやもっと小さいロボットが悪い訳ではない。だが、スケールの大きな描写は、文体にもよるが的確にダイナミズムを発生させるだろう。

 そして、攻城大陸はそれを可能にしている。

 加えて言えば、飛行型の小型ロボである竜騎兵ではスピードとテンポを重視した戦闘を見せ、一度決戦と慣れば巨大な城の圧倒感でヘヴィ級のガチバトルをせる。こうした二種類のロボによる緩急もまた、本作の心憎い巧さだと思う。


 さて、拙作せさくであるが……攻城大陸の人気が沸騰し、創作仲間の中で盛り上がっていた時に書いたものである。自身も原作を読ませていただいて、とても感心、感動したのを覚えている。

 そして、その圧倒的なスケール感に思わず邪悪なことを考えてしまったのだ。

 このマクロな視点の物語の中で、ダイナミックな巨城にミクロな視点を突き刺すとどうなるだろうか、と。大地を揺るがし空気を沸き立たせ、城と城とが直接打撃で戦う、その中で……エネルギーを発して動く城の中はどうなっているのか。四肢が稼働して躍動する、その瞬間の中の人達が書きたいと思ったのだ。

 この戦闘時のささやかなヒトコマが、原作のどこに挟まるのか。

 それは是非、珠玉しゅぎょくの原作を見て確かめて欲しい。

 なお、拙作には要所要所でオリジナルの設定や描写が存在する。

 それは、ダイナミズムに溢れた原作が必要としなかった『』のようなものである。気にせず巨大な城のせる大陸へ旅立って欲しい。


・攻城大陸(ここのえ九護)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054882480403


敬称略

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