パンドラの匣 ~宝くじ編~
む?なんだこの小さな箱は?
気になった私はそれを開けてみた。
すると、不思議なことに中から煙が噴き出した。それは浦島太郎が玉手箱を開けた時のようになんとも大きな煙であった。
この小さな箱にそぐわない大きな煙に驚いていると、さらに驚くことにそこから人が現れた。
いや、人ではないのかもしれない。何故なら、それは宙に浮いていたからである。
(パンドラ)初めまして。私はパンドラと申します。
未来を見ることができるものです。
(私)な、、なんだ急に!?
ん?未来を見ることが、、できるだと?
(パンドラ)はい。なんでも見えますよ。
私はパンドラの存在がなにか?ということもすごく気になったのだが、未来が見えるという言葉に心が動かされた。
(私)なんでもだと。例えばどんなものが見えるんだ。
(パンドラ)例えば、、あなたはこれから家に帰ってとても驚きます。
(私)なんだその中途半端な情報は。もっと分かりやすい未来はないのか?
(パンドラ)ありますとも。でもですね、未来というのは何でも分かってしまうとつまらないものですよ。
とりあえず家に帰ってみてください。きっと良い事がありますよ。
(私)確かにそうだな。
しかし、驚く良い事とはいったい、、?
とりあえず私はすぐに家に帰ることにした。そうすればパンドラの言ってることが本当に当たるのか、言っていたことがなんなのか分かるからである。
ただいま。
あら、あなたお帰りなさい。いつもより散歩の時間が短いのね。
あぁ、ちょっと疲れてね。
50になり体力の衰えを感じてきた私は休みの日はいつも散歩をすることにしているのだ。
しかし、驚くことなど起きないではないか。やはり未来が見えるというのは嘘なのか?
そういえば、、気になったので妻に聞いてみた。
(私)私の隣に何か見えるか?
(妻)はい?どうしたんですか急に?何も見えませんが。
どうやら妻にはパンドラが見えていないらしい。
帰る途中でパンドラから他の人には姿も声も感知されないとは聞いていたのだがこれは、もしかしたら私の頭の中で造り出した幻想ではないかと思い急に怖くなった。
そんなことを考えていると
(妻)そうそう!あなた!良い知らせがあるのよ!
実は、さっき由美から電話があっておめでただって!
(私)なに!!?
なんと娘の由美が妊娠をしたのだ。
なんと嬉しいことだろう!
愛する1人娘に子供ができるとは!
そして私は、はっと思い出した。家に帰るととても驚く良い事がありますよというパンドラの言葉を。
横を見ると言った通りでしょ、というように口の片方だけあげて笑っているパンドラがこちらを見ていた。
うぅむ。これはまさか。。
それから何度かパンドラには未来を教えてもらったわけだが全て当たった。
ここまで当たるなら私の幻想ではないだろう。
調子に乗って馬券の当たりを教えてもらおうとしたのだが断られた。教えるも教えないもパンドラ次第らしい。
パンドラについて詳しいことを聞いていなかったがパンドラいわく、自分が何故存在しているのか自分でも分からないらしい。
分かっているのは未来を見ようとすればどんな先の未来も見れること。
いつもはパンドラの匣という私が開けた匣の中にいて、誰かが匣を開けると何日か側にいることになるらしい。それは1日の時もあれば何年も滞在することもあるらしい。
未来が見えるのでどのぐらい滞在するかは見ようと思えば見れるらしいのだが、それはパンドラの言う、何でも分かってしまうとつまらないことになるのであまり遠くの未来は見ないそうだ。
1つ有益な情報でパンドラが何故存在しているかは分からないらしいが未来を少しだけ伝えるのが使命だと感じるらしい。らしい、というのがすでに曖昧なのだが。
ただ、未来について嘘はつけないらしいのであながち間違いではないのかもしれない。
とりあえず分かってることはそれだけで私にもパンドラにも何故、パンドラの匣があるのかはさっぱりである。
私はとにかく考えても分からないことはしょうがないので考えないことにした。他の人に見えないから説明のしようもないし、少しだけ未来が見えるというのは他の人には出来ないことでなんだか優越感もあるし。
そんなこんなでパンドラと出会ってからもう2ヶ月になろうとしていた。
そろそろ年末かぁと思った時に私は1つの事に気付いた。
実は私は年末の宝くじをいつも買うようにしているのだがこれが全くというほど高額当選したことがないのである。
せっかくパンドラがいるので試しに当たるか聞いてみた。外れるだけなら教えてくれるかもしれない。
(私)パンドラ、宝くじを買おうと思うんだが当たるかな?
(パンドラ)あらあら、そんなこと聞いていいんですか?宝くじというのは当たるのか当たらないのかが分からないから楽しいんですよ。
(私)た、確かに。しかしだな、未来が見えるパンドラがいるのにこういうことを教えてもらわないというのももったいないだろ?
(パンドラ)ふむ。一理ありますね。ん~じゃあ、見るだけ見てみましょう。
ん?んん?ほーこれは面白い。ふむふむ。なるほどなるほど。。
(私)ちょ、一人で楽しまないで私にも教えてくれよ。
(パンドラ)今日買ったら1等です。
(私)は?
(パンドラ)1等ですよ。6億ですね。
(私)、、、冗談か?
(パンドラ)残念ながら私は未来については嘘をつけないんです。
あなたは間違いなく一等の宝くじを買います。
まだ2ヶ月ばかりの付き合いだが私はパンドラが嘘をつくとは到底考えられなかった。
ん?さっき、何か気になることを言ってなかったか?
そうだ!今日買ったら一等!今日!!
私は慌てて会社を飛び出した。
まだこの時間なら大丈夫なはずだ。
私は全力で走り宝くじを買った。
なんとか、はぁ、はぁ、なんとか間に合った。しかし、安心したのもつかの間、会社から電話である。
(会社)ひ、廣川君。急に会社を飛び出してどうしたんだい?
(私)あ、いやーちょっと急用を思い出しまして。
(会社)そ、そうか。何も言わずに飛び出したから心配したぞ。今日のところはもういいから。直帰していいよ。
(私)ありがとうございます。
ふっー、私としたことが。明日は会社に行きづらいなー。しかし、これで私は億万長者だ!
そう考えて気付いた。
そうか。会社に行く必要はもうないのか。
家に帰り私は長い間考えた。
6億手に入れたとして、私は何をしたいだろうと。
そして色んなことを考える中で1つ分かったのは私にはあまり時間がないということだった。
すでに50代である。
裕福な暮らしをしても死ぬまでに6億使いきるなんてことはないだろう、、、
ピッピッピッ!ピッピッピッ!カチ、目覚まし時計を止めてうっすら目を開けるとまだ朝の6時である。私は天井を見ながら昨日の考えを思い出した。
私は億万長者だ。そんな私が朝早く起きてわざわざ仕事に行くなんて馬鹿馬鹿しいにもほどがある。しかし、何をしよう?、、そうだな、とりあえず二度寝してやろう。
そうやって私は眠りについた。。。
(妻)ねぇ!ねぇ!あなた!
急に起こされ、眠たい目で妻を見るとすごく慌てた調子で会社に遅れますよと言っている。
時計を見ると朝の6時半である。
私はめんどくさそうに会社は辞めたから気にしないでくれとまた寝ようとした。
(妻)なに、寝ぼけてるの!しっかりしてください!
、、、、、、それから色んなことがあったが長くなるので簡単に説明することにしよう。
宝くじを買った次の日、私は妻と喧嘩をした。その一番の理由は一等の宝くじを買ったと証明出来ない所が大きい理由だ。
色々伝える方法は考えたが無理だと思ったので私は妻に説明することをやめた。当選発表日がくれば全て丸く収まると思ったからである。
そして私は無断で会社を休み、妻と喧嘩をしている為、家にいるのが嫌で外にいることが多くなった。
まだ宝くじの当選発表までには日にちがあるため私は貯金に手をだし、今まで買えなかった高い物をたくさん買った。それは欲しいというより買えなかった物を、お金を気にせず買える喜びのほうが大きかった気がする。そしてお金を持っていると分かると周りの態度が大きく変わるのも面白かった。
特に態度が分かりやすいのがキャバクラだ。
ボーイもキャバクラ嬢も馬鹿みたいにへこへこしてきてそれが心地よかった。
貯金がなくなると私はカードでお金を借りた。どうせすぐに返せるお金である。当選発表日も近かったので残額など気にせずに使いまくった。
あまりに気にせずに使っていたため当選発表日の前日にはほとんどお金もなく、借りれるお金もなくなっていた。
仕方なく家で缶ビールを飲みながらも私は意気揚々としていた。何故なら明日には仲が悪くなっている家族にも分かってもらうことができ、大金も入るからである。
そんな時、玄関の鍵を開ける音がした。誰かと思えば私に愛想を尽かして実家に帰っていた妻である。
(私)おぉ!帰ってきたのか!どうだお前も!
酔っぱらってる私はビールを差し出しながら言った。しかし妻は無表情のままこう切り出した。
(妻)私はあなたに落胆したわ。貯金のお金も勝手に使いきって、毎日飲んだくれて。
家族で話し合ってあなたを訴えることにしたわ。離婚もよ。
(私)な、何を言ってるんだ。明日には当選発表日がくる。全て、全てが丸く収まるんだよ!
(妻)もしも、本当にあなたの言う通り当選してたとしても、私はお金のことしか考えてない、お金でしか解決しようとしないような人とは一緒にいれないわ。
そこまで言われて私は気づいたら妻を殴っていた。
言われていることが正しいと分かっていたが、逆にそれがどうしようもなく腹立たしく、酔っていたため加減もせず何度も何度も殴った。
そして妻を、いや、他人を家から追い出した。
イライラした気持ちのまま煙草に火をつけビールにも手を伸ばす。
しかし、ビールは空になっていてイラついた私は缶ビールをおもいっきり壁に投げつけた。
急いで冷蔵庫から新しい缶ビールを出そうとしたがさっきのが最後の一本だったようだ。
私はイライラした気持ちが落ち着かないので近くのコンビニまで買いに行くことにした。
玄関を開ける時、まだ、つ、、、いや、まだ誰かがうずくまっていたら、と思ったが誰もいなかった。
私はなんともいえない気持ちのままコンビニまで行き
我慢できずにコンビニの前でビールを飲んだ。
くそ!くそ!、、まあ、いいさ。明日になれば全てが上手くいく。大金を見せびらかせばあいつだって大人しくなるさ!離婚して慰謝料を払っておさらばするのもいいな!お金を1人じめできるってもんだ!ガハハ!
そんな事を考えながら家に帰ると私は信じられない光景を目にした。
家が、家が燃えていたのだ。
あ、あいつか!あいつがやったのか!?考えて私は気付いた。
煙草に火をつけビールに手を伸ばして、壁に投げつけた。。
煙草は、煙草は。。。
そしてさらに恐ろしいことに気付いた。
私は慌てて燃えている家に向かった。
しかし、来ていた消防士に押さえられた。
は、離せ!あの中には!あの中には!!
そうやって私は訴えたがダメだった。
消火が終わる頃にはもはや家の原型もなくなっていた。
もちろん、
あれも。
終
短編集(1ページ完結のショートショート集) @ariyaharu
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