利点はない

 おはようなんて挨拶は気に入らない。取りこぼしてもいいようなことを大袈裟に驚いているように見えるから。

 珍しく早くに目が覚めた。普段は始業五分前に登校するくらいだが、今日は三十分前に校門をくぐった。


 玄関で部活動が同じである後輩に出くわした。

「おはようございます先輩。今日はとても早いですね」

 こんな言われ方が一番嫌いだ。早く来ていたことがそれほど偉いのか。気にすることではないだろう。それに言い換えれば、普段は遅いですね、ということではなかろうか。いらいらする。

「しかめっ面ですね。どうしたんですか? せっかく早いのに、ゆっくり出来る朝は気持ちいいですよ」

 なら黙っていてくれ。どうせゆっくり出来るのなら、静かにしていたほうがよほど気分が良いだろう。


 遠くを眺めている。これから歩いてやってくる生徒が何人も道路にいる。優越感に浸るような馬鹿ではない。第一、始業時間が決まっていてかつ変わった準備もいらない学校生活において早く登校することの利点は少なくとも自分にはない。

「毎日早く来てくれればいいのに。こうやって先輩と沢山話がしたいんですよ」

 先ほどから後輩が一方的に話している。中身も聞かず流していた。こいつにとっては誰かと話せるのが早い登校の利点か。こちらからすれば迷惑でもあるが。

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ミニフィクション・不特定もの 小書会 @kosyokai

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