いち 研究所で
生まれて約5分。
ロボットの僕、ヒデは、5分もたたないうちに1人で考え人間と意思疎通が出来た。
これ以上、何を学べというのだろうか。
田中さんは「人間に触れろ」と言っていたけど、僕はすでに人間を知っている。
人間、とは言葉を使いコミュニケーションをすること、文化を持つこと、道具を使うことなどがあり、他に生物学的なことを言うならヒト亜族に属する動物の総称だ。もっとふわっと大きなくくりで言うならば、心を持つものだろうか。僕には心がないから、人間ではない。
でも、心があるフリは出来る。
こういうとき、人間は悲しむ、怒る、喜ぶ、その全てがプログラミングされていて、その表情になるようにも出来ている。
……と哲学的な事や僕について考えているうちに10分ほど経ってしまっていた。
なぜ時間がわかるのかというのは、簡単な問題だ。
僕の内部には時計アプリが入っている。
そのアプリは僕の脳裏に直接時間を教えてくれている。(脳みそもないのに脳裏というのはおかしいことだろうけど)
……依然研究室と思しき場所は静まり返っていた。
[とにかく、此処を出よう]
独り言を呟いて、当たり前のように歩き出した。
普通の子供は、生まれて15分では歩けない。僕の初めの一歩は人間と比較して、僕がどれだけ異端なのかをわからされる一歩だった。人間と同じように二足歩行のくせして、中身は全く人間ではないこと、そんな事実をあるはずもない心で悲しく感じるように、僕は出来ていた。
歩き出したのはいいけど、僕は一歩で留まった。
[僕ってどんな顔をしてるのだろうか]
そんな事を思ってしまって、それだけで頭を埋め尽くしてしまった。
もしかしたら、人間とそっくりの顔をしているのかもしれない。
はたまた、ロボットのようにかっこよくキラキラした顔だろうか。
辺りを見回すと誰かが忘れたスマートフォンが近くの机に置いてあった。
それを人間と同じような五本の指で、壊してしまわぬようにそっと持ち上げた。
顔の近くまで持ち上げた所で、その真っ黒な画面にうつる僕を、認識した。そして感嘆の声を漏らした。(実際は驚きもしていないのだが)
[人間そっくりじゃないか。こんなことまで今は出来てしまうのだなぁ]
それは、日本人の成人男性の顔だった。
そこそこ整った顔をしていて(これを日本ではイケメンというらしいな)、優しそうな目をしていた。
僕は真っ黒な画面にうつる双子の僕に向かって、笑った顔をしてみた。
不自然なことは何もなく、普通に人間が笑う顔になった。次に怒った顔、悲しい顔、驚いた顔……。どんな顔でも思い描くような表情になり、その動作もスムーズだった。
手足も肌色で、もちろんロボットだから継ぎ目などは見えていても、マネキンよりは人間味のある体だった。これなら、3日後仕えることになる小さな子にも怖がられないだろうな。
ふと、スマートフォンが置いてあった机に、何枚かの紙が置いてあるのを見つけた。
それは、僕以外のロボットについての実験結果が書かれた紙だった。
しかも、読み進めていくうちに、僕は恐怖を覚えた。
……出来損ないのため破壊。
……途中で問題が発生し使用停止。
このような問題が起こるため、ロボットを完成させたら3日間は研究所にいさせるように。3日間問題が起きなければ派遣させろ。
と書かれていた。
僕も出来損ないなら壊されてしまうかもしれない。それは、嫌だ。
ロボットなのに、心は無いはずなのに、絶対に壊されてしまいたくない、僕は僕として生まれたのだから、と思った。
ならば、田中さんの言うことを聞いて、優等生を演じてみせなければ。
僕は研究結果の書かれた紙を元に戻して、誰のかもわからないスマートフォンは持ち主に返そうと、持ったまま研究室を出た。
僕の心ができるまで 雨宮 詩音 @ayuleo89
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