2話『時間が止まったようだった』
あれから何年か月日が経ち、私は二十歳になった。
「静葉今日もバイト?」
「うん、何か用だった?」
「いやぁ…今日合コンがあってそれに来れないかなーなんて思ってた」
「もー彩乃!私そういうのは行かないっていつも言ってるでしょ?」
こっちに来てからできた友人の彩乃は、目の前で両手を合わせて「ごめーん」と軽く謝罪を述べた。
絶対に悪いと思ってない。
「でも彼氏欲しいと思わないの?」
「思わない、面倒そうだから」
「辛辣〜」
「なんとでも言いなさい。それじゃあバイト行くからまた明日ね」
「ん、ごめんね静葉」
「いいよ、バイバイ」
私は彩乃に背を向けて大学を後にした。
彩乃はああやってたまに合コンに誘ってくるが、私が一言断れば無理強いはしてこない。
そのあたりは本当にいい子だと思う。
だから私も本気で怒ることはないのだ。
あの告白から私はもう立ち直っている。
優木先生の事だって、たまにしか思い出さなくなった。
自分に言い聞かせている面もあるけど、引っ越してすぐよりはマシになっただろう。
それに、もう会うこともない人のことを考えていても仕方ないと開き直っている。
私は普通に大学を卒業して、普通に就職して、運があれば結婚をする。
そういう人生で生きていこう。
今は彼氏なんていらない、就職してからじっくり探せばいいのだ。
私はいつも通りの帰路を通過し、バイト先のカフェへと向かった。
このカフェは父の友人がオーナーとして経営する店で、オーナーは滅多にいないけど客もそこそこで過ごしやすい店だと思う。
私も特別忙しくなることがないので働きやすい。
「おはようございます」
「おーっす、今日は静葉さんとホールなんすね」
「うん、よろしく真崎くん」
「了解しましたっと」
彼は私より二個下の真崎くん。
彼は私とは違って大学には通っていないが、ここのアルバイトをしている。
私よりここで働く年月は長いが、年齢のこともあって私に微妙に敬語を使ってくれている。
私が働き始めの時は常に付き添って仕事内容を細かく教えてくれた。
「なんか今日は人少ないっすね?いつもパラパラと人入ってくんのに」
「そうだね…今の内にお店の前はいてくるね」
「相変わらずすきありゃ掃除してますね静葉さんて」
「別にいいでしょもー」
ほうきを持って私はカフェの扉を開ける。
カフェの制服では少し肌寒い気温。
「もうすぐ冬になるんだね…」
この季節になるといつも思い出す。
高校時代の甘酸っぱい思い出を。
こういう時しか思い出さないようにしているって事もあるけど。
あの恋は憧れなんかじゃない、本気だった。
今思い返してみても、わかってしまう。
今更どうしようもないけれど。
地面を見ながらはいていると、入り口付近に人の足が見えた。
お客さんだ。
「いらっしゃいま……」
時間が止まったようだった。
覚えのある胸の高鳴り。
そこに立っていたのは、
「……優木先生…?」
「やっぱり、雨宮だったか」
優木先生はあの頃と変わらない鋭い目つきと眼鏡。
それでも私に向ける笑顔は、あの時よりもっと優しかった。
先生を、私にください。 suna @suna_mc
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。先生を、私にください。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます