肝試し

戸賀瀬羊

図書室

どの学校にも1つや2つあるように、この学校にも不思議な話があった。


深夜の2時に図書室で、カバーも中身も真っ白な小説を見つけて、そこに願いを書き込むとそれが叶うらしいと。


噂はどこからともなく、でも消えることなくあって、毎年何人かがそれを試そうとする。


今日もほらまた、3人の学生が噂を確かめにやってきた。


2人が男子で、金髪と黒髪眼鏡。そしてもう一人は背の小さい女子。入口入ってすぐの貸し出しカウンター前で何やら話をしている。


「中身が真っ白って、それただのノートじゃん」と金髪が言った。


「でも小説なんだって聞いたよ?理由はよく分かんないけど」と女子。


「あるわけないでしょいい加減にしなよ。明日も遅刻したらどうすんのさ」と黒髪。


「いいよ俺は教室に泊まってくから」と金髪。


どうやら黒髪は二人を止められなくてここまで来てしまったらしい。


噂は女子が知っていて、それを聞いた金髪が乗り気になって、願いを叶えに来たんだそうだ。ちなみに3人は幼馴染なんだとか。うらやましい限りだ。


「そんで、どこにその小説はあんだっけか?」金髪が言うと女子は「知らないよ」と首をふった。


「は?じゃあこの中全部探せってか?」と金髪。


これまでの学生のほとんどと同じ様に、この調子なら諦めるだろうなぁと思ったけれど、金髪は意外にも書庫を端から端まで調べ始めた。


「なぁもう帰ろうって」と苛立っている黒髪を無視し、金髪は歩き回り、女子はその後をついて回る。


これは久しぶりに楽しめそうだ。


やがて書庫を全部見たものの見つけられなかった3人は、カウンターに戻って来た。そして、私を発見した。


「あれ、こんな所にさっき本なんてあったっけ?」と女子が言う。男子2人がその事実にびっくりして女子の後ろに隠れる。いや、隠れきれてはいないのだが。


女子はけろっとした様子で私を手に取った。カバーも中身も真っ白な、この私を。


中をぱらぱらと見て確信した女子は、金髪に私を手渡した。


「噂の本かと思ったけど、これはただのノートなんじゃない?」女子は言うが、金髪は緊張した様子で私をしばらく見つめ、持っていたペンを走らせた。


2人に見えないように書いた後は「何を書いたの?」という女子に何も言わずに、私に背を向けた。2人も置いていかれてはたまらないと後に続き、しんとした図書館に私だけになった。


「成績を上げて、2人と一緒に卒業したい」とその見た目からは意外と思える願いがそこにはあった。


そしてもちろん私はその願いを叶える。


金髪は学校の成績が上がり、あの2人と卒業が決まった。卒業式ではそれはもう嬉しそうな3人の姿があった。


ただ、その帰りに黒髪と女子は忽然と姿を消してしまった。神隠しにでもあったかのように、急に家族でさえも連絡がとれなくなって、そのまま見つかることはなかった。



「真っ白な小説に書いた願いは本当になる」

この噂には続きがあることを、あの3人は知っていたのだろうか。


ただで手に入るものなど、あるわけがないだろう?


私は確かに願いを叶える。でもその代償にその人の一番大事なモノをいただく。


それは確実に私の中に記憶されるが、私には文字は書けない。


だから真っ白なままだけれど、白い小説にはまた1つ、物語が増えるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

肝試し 戸賀瀬羊 @togase

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ