第2話

「いつまで突っ立っておるんじゃ?」ふと我に返る。

「あぁ光が暖かったものでつい」僕は笑って返す。

「ほれ!お前さんの新しい力である神剣ビカースじゃ」そういってリブは笑いながらそれを手渡してきた。僕は驚いて声を上げる。

「リブ様?あの………これって………」手渡されたそれは神剣というには余りにも質素な、いや一周回って滑稽なものだった。大きさは持っていた鉄の剣より一回りほど大きかったが、その刀身はかろうじで剣の形をしたごつごつした岩がくっついているような作りであり、鍔から下は錆鉄のように茶色かったのだ。

「なんじゃその目は?まぁその見た目ならお前さんの反応も無理はないがなぁ。我から言わせれば、なんも無理もなく、致し方なく、真っ当な理由の上のその姿じゃらからのう」いつの間にか、リブは先ほどまで座っていた岩の上に立ち、腕を組み、これでもかと見下すように言った。そして僕が戸惑っているのを楽しそうに笑いながら言葉を続ける。


「その神剣ビカースはなぁほかの神具や魔具と違っての、唯一といっていいじゃろうなぁ『成長する剣』なんじゃよ、神の道具を武器を作り続けて、人から神に進化した我のようになぁ。我とその眷属であるお前さんの力。この力っていうのは身体能力だけじゃなく、強い敵に向かう勇気や、か弱きものに見せる優しさ、その他もろもろを含めた力じゃよ。だからお前さんがこのまま夢に向かい走っていけば行くほどその形は変わっていくだろうのぉ。あと我の尊厳にかけて一つ言っておくが、その剣は我の分身のようなものだからの。今の我は下界に命からがら逃げのびた故、ほとんど力が残っておらんからの。飯を食い、一日ゆっくり休めばどれほどお前さんの力が弱かろうと、我の力だけでもその鉄の剣よりは遥かに使い物になるだろうよ。そしてお前さんが諦めない限り折れることも無ければ、そこら辺の神具らぁよりも強くなるかもしれんしのぉ」彼女は自慢げに天を、自分をいた場所を仰ぎながら言った。


「本当ですか!?すいません。ちょっとでもリブ様のこと疑ってしまって……僕このビカースに誓って、この名が天に届くまで頑張ります!!」

「もーそんな褒めるでないぞ。まぁそのリブ様っていうのはやめてくれい。逃げ隠れている身であるからの。リブでよいわ。」照れていた。神様は顔を赤らめながら清々しいまでに照れ笑いをしていた。というわけで、僕たちはクエスト完了を報告しに、バグールの町に戻っていった。




  町に着くと日も落ちかけていて、正門を守る警備兵さんもほかの人と変わっているようだった。

「うぅ。あの警備兵さんにこのビカースを自慢しようとしたのに!リィサさんはまだいるかなぁ」僕が独り言のように呟いていると

「待て待て待て!!お前さんよ!!さっきの話聞いていたか?もう忘れたのか?もう我の話は頭から消え去ったのか?我は追われる身ぞ?今のお前さんにそんな我を守るだけの力があるのか?ましてや、一度放たれた神具や魔具はその持ち主が眷属で無くなるまで消えることはないんぞ?眷属にしか使えない力にしろ、神具というだけで果てしない価値があるんぞ。我を狙う神だけでなく、そこら辺の盗人にすらお前さんは勝てないであろ?ビカースのことはほかの者に簡単にいっていいものではない!!!」怒られた。盛大に怒られた。さすが神様……幼女の姿でも怒るとそれなりに威厳があった。怒らせないように気を付けないと………



「確かに。薬草5つ確認しました。なかなか戻られないので心配してたんですよ!?ウルさん!?その傷どうされたんですか!?」リィサさんはカウンターから驚いて僕を覗き込むように…………リブを見つける。

「そこの幼女は?もしかして誘拐とかじゃないですよね!?」真面目そうなリィサさんにはこのビフォーアフターは少々きつかったらしい。

「森の奥で狼に襲われまして。なんとか倒したんですけど。傷自体は浅いので見た目よりは平気ですよ。あとこの幼女は………」僕が慌てて説明をしようとする。


「幼女とな!?その発言は見ず知らずの我に対して無礼ではないかのぉ?これでも我は鍛冶を司る天界のかグフゥ」

「この子はリブ・ノワールです。僕の妹なんですよ!家族がちゃんと僕がこの町に着いたか心配して皆で来たんですよね!帰りにたまたま会って!僕はギルドに行かないとっていったら興味示しちゃって連れてきちゃっただけなんです!」慌ててリブの口をふさぎ、フォローを入れる。

「はぁ。そういうことでしたか。ではこちら報酬の銅貨5枚になります。明日からは最低ランクのクエストでしたらどれでも自由に選ぶことが出来ますので。それではお疲れさまでした。」

「はい!ありがとうございましたぁーーー」僕は報酬を受け取るやいなや急いでリブを抱いてギルドから出て行く。

  「何でばらそうとしてるの!?さっきリブが自分で言ったんでしょ!?」

ゴン!!

蹴られた。幼女に思い切り足を蹴られた。

「あぁ!」声にならない声を出しながらうずくまる僕の上から冷めたような声が聞こえてくる。


「やはりお前さんはお馬鹿さんじゃな!お阿呆さんじゃな!名前をウル・ノワールからバカ・アホールに改名したらどーじゃ?我はリブ・ノワールのままにするからの!勘当じゃ!絶交じゃ!」正直僕には何故彼女がこれ程まで怒っているのか全くもって判らなかった。少なくともあれ程までに完全完璧なフォローは僕の人生の中で3本の指に入るくらいの出来だったのに。きっと顔にも出ていたのだろう。彼女は呆れたように続けた。

「お前さんよ?よく考えてもみろ。あのエルフはお前さんの担当なんじゃろ?今日我のことを誤魔化せても今度からどーするつもりじゃ?狼にボロボロにされる冒険者に妹幼女を連れて魔獣退治に行かせるとでも?ギルドは信用命じゃ。個人情報が流れる事なんてほぼほぼない。ここはキチンと事情を説明する以外に我がお前さんと狩りをする許可をどーれようか!?」怒られた。さっきより盛大に。ギルドの外ではあったが、リブの声を聞いてリィサさんが飛び出してくるほどだった。



  「そー言うことでしたか。それならそー言って頂ければよろしかったのに。」ことの一部始終を聞いて、クスッと笑いながらリィサさんは続ける。「いえ。勿論神様と契約を結ばれている方なんて本当に珍しいですし、冒険者になって1日でなってしまわれるなんて本当に驚きですけど。私達エルフは個人差もあり、私もそれほど強くはないんですけどある程度人の心の本質が判るんです。ウルさんは真っ直ぐで優しそうな方でしたからね。そんなウルさんが幼女を誘拐したってよりは、神様の眷属になられたって言うことの方が納得できますよ」褒められてる。僕は今褒められてる!!…………ヨネ?


 今日からはギルド紹介の宿屋に泊まる事になった。リブを連れていたせいなのか、宿屋の女将さんに視線が少し痛かったのはご愛嬌………

「さぁお前さんよ!飯も食い!風呂も入った!あとは寝るだけじゃな!どーじゃ?明日からのために神のありがたーーいお告げでも聞くか?」夕食が余程気に入ったのかあれからハイテンション幼女が止まらない。その日は夜遅くまで幼女のお告げ?を聞かされたのだった。




朝目が覚めると僕が自分の目を疑った。

「リブーー!!見て!!見てよ!!ビカースが!!!」昨日は石の剣のようだった神剣ビカースが大きさは変わっていないものの、刀身は青みがかった白で、装飾などはないものの宝剣と言っても決して、断じて、過言ではないような光沢を放っていた。

「うるさいなぁお前さんよ。ほぉ!やはり1日たって我の力も安定してきたからのぉ。まぁ想像するに我の力にお前さんのその屈託のない青空のような心が反映されたんじゃろうのぉ。ただ善くも悪くも目立ちすぎるのぉ。他の装備と噛み合っておらなすぎる。この鞘にいれておけ」そーいうとリブはどこからともなく鞘を取り出す。外見は、青みがかった白でまさしく宝剣の鞘のような………

「いや!意味なくない!?これどこからどう見てもこの宝剣の鞘じゃないか!」

ゴン!!殴られた………出てきたばかりの鞘………口は災いの元とは先人達も眷属だったに違いない。


「朝っぱらから騒ぎすぎなんじゃよ。バカ・アホールよ。出てきた時に気づかぬか?普通。これは真剣ビカース専用の鞘。これも神具に決まっておろーが!!まぁさして能力は無いがな。ビカースがどんな形に変わろうがこの鞘に入れれば………ほれ!」そーいってリブが鞘にビカースをしまう……!!先程まで澄み渡る空のような輝きを見せていたビカースとその鞘は昨日見たあの石の剣に戻っていたのだ。

「不安がるでないわ。一度その鞘から出せばまたさっきの形に戻るだろーよ。これは一種の盗難防止じゃよ。まぁ他にも能力はあるんじゃがなぁ。今のお前さんには何の意味も無いからのぉ。ま!お楽しみはまた今度!ってやつじゃな」と驚きを隠せない僕を尻目にリブは「さぁ冒険に出発じゃ」と意気揚々と部屋から出て行った。



 それから宿で朝食をとり、クエストを受注するため二人でギルドに向かう…………とギルドの少し手前で人集りが出来ていた。

「本当です!何回言えば信じて貰えるんですか!」一人の女の子が数名の男達に囲まれていた。年齢は僕と同じくらいだろうか。胸元ほどの白の髪を靡(なび)かせ、四面楚歌、孤軍奮闘、男達よりよっぽど勇ましかった。

「へぇーへぇーだから俺達も言ってるじゃねぇかお嬢ちゃん?あんたが言うことが本当なら俺達の見たことない魔法の1つや2つ打ってくれりゃぁ信じるさ」囲っている男達のリーダー格だろうか一際図体のでかい男が笑いながら話す。

「なりません!魔法は決して見世物などではないのです!魔法とは人々を守り、助け、力になるそのような神聖なものです!千彩侯の1番弟子!ルルム・フリークス!数多魔法を持っていますが、貴男方に見せる魔法など1つもございません」

「えっ!あの千彩侯!?」僕が彼女の言葉に反応すると

「何じゃ?お前さんよ。あの娘と知り合いかの?」リブが不思議そうに声をかけてくる。


「いや。彼女じゃなく彼女の師匠だよ!冒険者にはランクがあるんだよ!たとえば僕は新人冒険者のFランクなんだけど、Sランク以上の冒険者になるとギルドから『侯』って言う称号が貰えるんだよ!この称号はこの国だけじゃなくて世界中で通用するんだ!そしてその冒険者の性格や特徴に合わせて名前が付くんだけど………例えば!さっきの千彩侯は凄い魔法使いで!いろんな属性魔法を同時に使えるとこから称号になったんだよ!だからこの称号は僕にとって『世界一の冒険者になること』のすごーーーーい!大きな通過点なんだよ!」

「あぁ。わかったわかったお前さんよ。ただでさえ暑苦しいお前さんがこーも目をキラキラさしながら語ると天候なんて関係なしにここら一帯干上がってしまうわ!そんなに欲しいなら我が付けてやる激暑侯でどーじゃ?お前さんに、ぴったりであろー?………」

リブの話をよそにしびれを切らした男が一人ルルムに飛びかかろうとした。


「まぁまぁ。ここまで言うんだ今回は諦めようぜ。ただなぁ今朝早くにこの町に着いた商人がさぁ。ここから南に行ったデオン山脈の麓で見たことない狼の魔獣を見たらしんだよ。少し離れているって言っても相手はそこら辺の魔獣とは違うそうだ。俺ら市民は怖くて夜も眠れないだろーなぁ?騎士団に報告するのもアリなんだろーが、せっかくかの有名な千彩侯の1番弟子様が来てくれたんだ。勿論俺らを危険から守ってくれるよなぁ?」男は笑いながら挑発的に彼女を見つめる。

「むぅ!謎の狼の魔獣とのぉ。」リブの独り言を余所に

「待って下さい!僕も手伝わして下さい」体より先に言葉が出ていた。

「誰ですか!?貴方は?貴方まで私を馬鹿にしに来たんですか?」彼女はとても怒っているようだ。神様より怖い。。。

「良いじゃねーか!よかったなぁお嬢ちゃん?勇者様が助けに来てくれてよぉ?まぁそー言うことだから頼んだぜぇ」リーダー格の男はそーいうと笑いながら仲間達と町の奥へと消えて行った。

「貴方何なんですか?急に出てきて!」どーやら怒りの矛先は僕に向いたみたいだ。やはり怖い。。。がここでひいては男が廃る!

「僕はウル・ノワール!冒険者です!夢は『世界一の冒険者になること』いくら千彩侯の1番弟子の貴女でも情報の少ない魔獣を一人では危険だと思います。どうか僕にもお手伝いさして下さい!」

「おぉぉー!よく言ったぞ夢見ボーイ!良いじゃねぇか嬢ちゃん!連れて行ってやれよ-!」まだ残っていた野次馬たちが口々に言う。

「勝手にして下さい!邪魔はしないで下さいね」そう言うと彼女は門に向けて歩き出した。


朝日に照らされた彼女の背中は、先程までの勇猛果敢な騎士のような威勢とは裏腹に、か弱な少女の背中のように見えた。



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Lv1冒険者が神になるまで 韋駄天使 @towa0423

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