Lv1冒険者が神になるまで

韋駄天使

冒険者始めました

第1話

   「ウル・ノワール今日から冒険者始めます!!」

門の外からでも分かるほどの賑わい、さすがはこの国第二の都市といわれるバグール。その正門の前で僕は高らかに天に届くように決意表明をした。昨日で15歳となり、漸く冒険に出ることを許して貰い今日遂にバグールについたのである。長年の夢が今日をもって始まるのである。

「ちょっとそこの君!何してるの?困るよーそういうことされちゃあ」

不審に思ったのか警備兵が近づいてくる。

「すいません!!どーしても言いたくて……」

怒られた。かなり怒られた―――と思う。申し訳ないが小さい頃からの夢『世界一の冒険者になること』の第一歩目なのだ。あなたの言葉なんて何一つ頭に入ってこない。

「聞いているのか!!?そんなんではこの町に入れないぞ」―――拳骨を食らう。――反省――。

なんとか事情―――僕の長年の夢を熱弁する。

「あぁぁ!分かった分かったよ!!この道をまっすぐ行けば冒険者ギルドがあるから。じゃあね!頑張ってね」と途中で僕の話は止められた。

  町に入ると、先ほどまで感じていた町の賑わいがより一層伝わってくる。道端は大きく両端には石造りの家や店が所狭しとならでいた。教えて貰ったとおりに道を行くと、何度も夢に見たギルドを発見した。

「えーと。ウル・ノワールさんですね。登録完了しました。私これからウルさんの担当をさして頂きます、リィサと申します。」歳は僕より少し上だろうか、肩程のブロンドウェアの間から三角の耳が顔を出していた。ただエルフは僕のような人より長生きするためか、成長の途中から見た目の変化も遅くなるらしいので正確な年齢はもう少し上かもしれない。

「ではクエストを受注さして頂くのですが、初めてのクエストになりますので、こちらの薬草を5つ採取しか受けられませんが……」

「分かりました!」

「では初めてのクエストになりますのでこちらの冒険者セットをお渡ししますね。地図もこの中に入っていますので。薬草はこの町の東にある森の中に多く生えていますよ。ではお気を付けて」

「はい!行ってきます」

  ギルドの外でリィサさんに別れを告げ、森に向かって歩き始める。コツコツと堂々と着々と一歩一歩、夢を踏みしめるように……と不意に声をかけられた。

「おっ!ギルドには着いたのか?」森に一番近い門は正門だったみたいだ。さっきの警備兵に声をかけられた。

「はい!お蔭様で!ありがとうございました。」

「クエスト説明はちゃんと聞けたのかぁ?またどっか上の空だったけどなぁ。そうか!森に行くのか!あの森なら魔獣なんて出ないから、お前さんみたいに夢うつつで歩いていても平気だろうさ

!」と笑われてしまった。正論過ぎて言い返せない―――反省―――

  


 

 30分ほど歩くと小さな森が見えてきた。さっきの警備兵の話だとこの森の奥にある泉のほとりに多く樹勢してるらしい。この森は町から近いにもかかわらず、僕のような駆け出し冒険者の為に保護されているらしい。しかも森の周りには、魔獣除けの結界が張られているらしく、余程のことがないがり安全だそうだ。森に入ると奥へと繋がるであろう道が木漏れ日で照らされ、周りには小鳥たちが僕を歓迎するように鳴き声を競い合っていた。少し歩くと小さな泉があり、周りにはギルドで見せられた薬草がいくつも生えていた。


 「これであとは帰るだけ、か。やっぱり最初はこんなものだよなぁ」初めてのクエストで浮き足立っていた分これ程簡単に終わりが見えてしまうと、どこかやるせない気分になる。しかも入り口ではうるさいほど聞こえていた鳥たちの鳴き声も奥に行くにつれ小さくなっていっていき、ここでは全く聞こえず余計に悲しくなってしまう。………と

「ワオーーーン!!!」

不意に獣の叫ぶ声が聞こえた。狼だろうか?ここからさほど遠くない。僕は急いで声のした方へ走っていった。さっきまでと違い道のようなものも無いため木々や草をかき分けさらに奥へと進んでいく。漸く開けた所に出る「だいじょ」―――息が止まる。

そこには灰色狼5匹に囲まれている少女?がいた。全身フードを被っていたので顔や体格など殆ど判らない。ただ所々破れているフードから燃えるように赤い髪の毛が見える。相当長いので、女の子だろう…………キット

よく見ると所々傷まみれでもう逃げる気力も体力も残されていないようだった。きっとここで格好いい王子様や僕の目指す冒険者なら颯爽と現れ、爽快にこの灰色狼の群れを一掃するのだろう。ただ僕も負けていない!「大丈夫ですか!?」と力強く叫びながら風のように、瞬く間に狼の前に躍り出た。この躍り出ると言う言葉は本当に比喩などなく本当に踊っているようだったと思う。声とは裏腹に僕の足は尋常じゃないほど震えていたからだ。一応故郷の村にいる間に少しでも夢に近づけるように毎日筋トレをしていたし、村を出るときに鉄で出来た剣と盾も貰った。それらを踏まえて考えると、今の僕にはこいつらを倒せて3匹だろう…………いや1匹カモシレナイ

「大丈夫か?」はっと我に返る。後ろの女の子が心配そうに声をかけてくる。ハズカシイ本当に恥ずかしい。ピンチに駆けつけたのが王子様だと思ったら生まれたばかりの仔馬だったのだから……………

「ワン!」痺れを切らしたのか1匹の狼が襲いかかって来る。それを盾で受けて剣で反撃する。

「逃げて下さい!早く!」「急げ!!」声を荒らげてしまう。すると女の子はよろよろと立ち上がり走り去っていく。ふと女の子にはどんな時も優しくしなさいでないとモテないぞ?といつも笑いながら話していたお爺ちゃんの事が脳裏をよぎる。

いや。大丈夫だろう。きっと。灰色狼は食事の為にしか狩りをしない。だからもし僕が負けたとしても、この狼たちはもう彼女を追うことはないだろう。時間稼ぎくらいなら。僕にだってできる。否。やらないといけないんだ。

「はぁーー!!」僕は大きく声を上げ先程の攻防で他の奴より前に出ていた狼に剣を振り下ろす。

「キャンッ」と一瞬鳴いたかと思うと狼は倒れてしまった。しかしその狼が倒れると同時に残りの4匹が飛びついてきた。捌ききれず左肩を爪で抉られる。

「うぅ」痛みで剣を落としそうにナルのを必死で堪え、反撃にでる。左肩の次は左腕―――脇腹―――胸―――太股次々に切り傷が増えていく。注意していたこともあり、幸いにも骨さえ砕きそうな牙はまだ突き立てられていなかった。1匹ずつ着実に狼を倒していく。遂にあと1匹…………国を守る騎士達はこんな気持ちなのだろうか、守るものがあると人は頑張れるらしい…………とそこで僕の意識は途切れる。





バシャャャャン………………目を覚ます…………!!息ができない。視界がぼやけて状況がつかめない。ただこの肌に触れる感覚は水だろうか?「ゴボッゴボ」体の中にまで水が侵入してくる。必死に体をもがくが少しも状況が進展せず……………また意識が………ザバァァァン

「お前さんは金槌じゃったのか?いや、それ以前の問題か。なんせ我の足でも着く深さの泉で溺れるんじゃからのう」襟元を掴まれ水から出される。

「ありがとうございます。死ぬかと思いました。」息を整えると慌てて命の恩人に頭を下げる。よく見るととても見覚えのある、燃えるような髪の毛の少女?幼女が立っていた。見た目は7~8歳ほどだろうか?全身コートに包まれているが、コートの方が彼女より大きい。ダボダボにも程がある。

「確かに。お前さんの命を助けてやったのは我じゃ。まぁお前さんをこの泉に突き落としたのも我じゃがな」

「え?」僕は言葉を失う。血を流しすぎたのか頭がくらくらする。この状況が一瞬で分かるような質問が全く浮かばない。

「どーした?まだ混乱しとるのか?まぁ無理もないかのぉ。なにせあれ程血を流したんじゃからなぁ」幼女は笑いながら話す。

「狼は?まだ1匹残ってたはずなんです!」思い出す。漸く。遂に。急に。先程の攻防のシーンが鮮明に蘇ってくる。

「安心せい。1匹くらいなら今の我でも倒せるわい」と幼女は僕の心配もあっさり切り捨て、近くにある少し大きな岩に腰掛けて、淡々と僕が倒れてからのことを話し始める。





  どうやら彼女は少し離れた所から僕を見ていたらしく、満身創痍な僕に加勢しにきたタイミングで、僕が倒れたらしい。薬草が多く樹勢するこの泉自体に回復効果があるらしく、そこから僕をここまで引きずり、突き落としたらしい。

「いやいやいや!ありがたいですけど!!もうちょっと他に方法は無かったんですか?」さぞ当たり前のように話していた幼女に勢いよくツッコミを入れる。

「そーいわれてものぉ。今、我はこんな姿じゃからな。サイゼンサクと言うやつじゃよ」戯けるように幼女は言う。が、僕は引っかかる。

「今?前は違う姿だったんですか?」―――幼女は待ってましたとばかりに、満面の笑みを浮かべながら話した。自分はリブという神であると言うこと。昔自分は人間であり、神具を創れるほどの鍛冶職人であり、それが認められ神になったこと。しかし、自分をよく思わない他の神に襲われ逃げてきたこと。そして………

「我ら神は下界に来てしまうと殆ど力が使えないのじゃ。いや、使えないのは人を越える力―――神の力だけなんじゃが。襲われたときに力を使いすぎてのぉ、こんな姿で来てしまったからの。戦闘力は幼女レベルじゃな」とリブは可笑しそうに。けらけらと。

「まぁ下界に落ちてすぐあの狼共に襲われたからのぉ。普通の状態なら、魔獣でもないあんな狼共に負けたりはせんがなあ。のぉお前さんよ?」納得した。きっと、リブが言っていることは正しいのだろう。でないと、この世界に皮肉を使いこなす幼女がいる方が信じられない。

「それでじゃ。お前さんよ。本題なんじゃか。本当本命なんじゃが。強くなりたくないか?」とリブは不敵に真剣に聞いてきた。

「なれるなら!夢が叶うなら」僕が答える。

「よく言ったぞ!お前さんよ。では我の力を授けてやるぞ」

「本当ですか?ありがとうございます!!」今僕の顔は相当顔が綻んでいるだろう。自分でも分かっていた、いくら群れと言っても。いや、群れとすら言わないだろう。たった5匹の狼にすら一人の力では勝てないのだから…………

「さて。では契約を始めるとするかのぉ」そう言うとリブはおもむろに岩から立ち上がる。

「え?契約?願いを叶えてくれるんじゃないですか?」僕は質問する。

「お前さんよ。この世のどこに狼を5匹倒しただけで、願いを叶えてくれる奴がおる?この世の理とは対価交換ではないかのぉ?」

「じゃあその、力のための対価って何なんですか?」

「それはもちろん。ドレイ…………否眷属化じゃな」

「えっ今さっきドレ」

「とりあえず!!お前さんが我の眷属となり力を付けていけば、その主である我の力も戻ってくる。さすればお前さんに与えた力も上がる。どーじゃ、悪い話ではなかろう?」リブの言葉に反応した僕の言葉を遮って慌てて説明してくる。

「でも、眷属とか契約って本当に神様なんですか?どちらかと言えば悪魔みたいです」僕は率直な感想をぶつける。


 「失礼な!!まずそれはお前さん達人間が勝手に!身勝手に!抱いた幻想に過ぎんよ!我ら神も悪魔も等しく契約の元でしか力を貸すことはないよ。考えても見ろお前さん達人間は、海が荒れれば海の神に人身御供を送り、家族の無病息災を願い供物を、賽銭を送る。悪魔を召喚するために、血を使い、人や動物を生け贄にする。何の違いがあろうか?もっと言えば悪しき神もいれば、善き悪魔もいる。それをお前さん達は良い事が起これば神に感謝し、不幸があれば災いと悪魔を恐れる。無知とは罪なりとはよく言ったものぞ」幼女は顔を赤くして説明をする。虎の尾を踏んでしまったようだ。

「分かりました!僕が悪かったですよ神様。僕を眷属にして下さい」僕は話を聞き終わるといなや直ぐに言葉を繋ぐ。ここで機嫌を損ねてしまえば、こんなチャンスはないかもしれない。空前絶後の千載一遇の神の手を取らないなんてあり得ないでしょ?

「よし。よく言ったぞ。してお前さん名はなんと?」

「ウル・ノワール!冒険者です!!」…………ウルは声を出しすぎたようだ。体のあちこちが痛む。そんな僕を余所目に赤髪幼女は空に向かって声を上げる。

「ここに鍛冶神リブの名に置いてウル・ノワールを我の眷属とし、我の力を授けよう」

僕と彼女は大きな光に包まれる。優しく偉大な暖かい光だった。

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