第7話 人魚肉の焼肉ぱーちー 03
パーティ当日。トシヤたち3人は、この日のために借りた高級車でパーティ会場に向かっていた。トシヤはぴったりとしたデザインの黒スーツ、アマトはストライプスーツに中に着たベスト、ミィは角や鱗が見えないようにフリルをふんだんに使ったふわふわのパーティドレス姿だ。
後部座席に座ったアマトは落ち着きなくそわそわと窓の外の景色を眺めていたが、ふと運転するトシヤを覗きこむようにして尋ねてきた。
「ところで先輩。今回守るブツってどんなのなんすか?」
運転する速度が一瞬落ち、その後に呆れた声がアマトに返ってくる。
「お前……資料は前もって渡しただろう」
「えへへ、実はあの後派手に汚して読めなくなっちゃいまして……」
「だったら早く言え。代わりを渡すから。……ミィ」
「はーい!」
アマトの隣に座っていたミィは、傍らに置かれていた鞄を漁り、アマトに資料の封筒を手渡した。
「どーぞ!」
「あ、ありがとうございます……」
アマトはなるべくミィから離れた場所に座りながらおそるおそるそれを受け取り、中身を取り出した。
「今回出品されるのは『人魚の肉』だ。とある富豪が代々受け継いできた冷凍施設に残されていたもので、たったの100グラムで数億するらしい」
アマトは資料についていた肉の写真を見て、それからトシヤに対して素っ頓狂な声を上げた。
「人魚――ってあの人魚っすか?」
「どの人魚かは知らないが多分その人魚だな」
アマトは昔読んだ絵本のことを思い出していた。王子に恋をした人魚が巡り巡って海の泡に消える舶来の物語だ。
「なんでも最終戦争以前から冷凍保存されていたものなんだそうだ。それを金に窮した当代の富豪が見つけて、オークションに出品した、とそういうわけだ」
ハンドルを動かしながらトシヤは言う。アマトは資料から目を上げた。
「眉唾物っすよねえ」
「まあな。だが人魚の肉と言えば、食べれば不老不死の力を手にすることができるっていう伝説もある。それで価値がつりあがってるんだろう」
窓の外では灰がちらちらと降りしきっている。フロントガラスのワイパーはゆっくりとそれを拭い去っていった。
「食のルネサンスが起こってからこっち、そういう食材の値段は跳ね上がる一方だからな。仮にただの肉だったとしても大発見だ。うまくいけばそこから大昔の食肉用の生物を復元できるかもしれない」
「研究的な価値もあるってことっすね」
「多分俺たちにお鉢が回ってきたのはそっち関連なんだろうな」
人魚の肉をオークションで落札して研究材料にしたい。しかしそれを狙っているのは非合法な組織も同じこと。俺たちの任務はきっとそいつらを排除することだろう。――もしかしたら、パーティの光に寄ってきた害虫を駆除するためかもしれないが。
トシヤは一瞬心底面倒そうな顔をした後、すぐに表情を引き締めた。だめだ。俺がやる気を失っては、アマトはもっとやる気を失ってしまう。こいつはそういうところがある奴だから。
「今回俺たちは警備員としてじゃなく、招待客を装って警備をすることになってる。ボロは出すなよ」
バックミラー越しにアマトを見ると、アマトは書類を置いて目を輝かせていた。出発する時はあれだけ気を付けて着せたというのに、もう既にスーツは着崩れている。
「なんか昔の映画みたいっすね! スパイアクション!」
「……お前は本当に能天気だな」
「いやーそれほどでも」
褒めてないしネクタイが曲がっている。もうここは放置して、あとで直してやろうと心に決め、トシヤは車を走らせる。そして十数分後、辿りついたのは30階建ての高級ホテルだった。
駐車場に車を停め、アマトのスーツとミィのドレスを直してやってから、自分のネクタイを締め直す。さあここからが勝負だ。潜入は初めてではないがうまくいくかどうか。
「……気を引き締めろよ」
「はいッス!」
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