第4話 愛と妄執の引っ越し蕎麦 07(終)

 謹慎一週間。それがトシヤに言い渡された処分だった。

 発症者がいる可能性がありながら、独断で動いたことへの罰としては妥当だろう。しかしそれ以上に、己の精神状態を加味した上での休養期間であるということはトシヤ自身も理解していた。


 モモコは何故、特務捜査官と知りながら、トシヤと親しくなったのか。何故よく料理を振る舞ってくれたのか。そして――何故、あの時トシヤを呼んだのか。


 考えても仕方のないことがぐるぐると頭の中を回り、臨時に用意された部屋の中で、トシヤは布団をかぶりなおした。


 ――もしかしたら、モモコは自分に止めて欲しかったのかもしれない。自分のしたことへの罪の意識にさいなまれて、自分に助けを求めていたのかもしれない。


 そんな想像が頭をよぎったが、今となっては確かめようもないことだ。トシヤはぎゅっと目を閉じて、その想像を頭の中から追いやった。



 一週間後、ミィを連れてトシヤは引っ越しトラックに荷物を詰める手伝いをしていた。


「トシヤ、トシヤ!」

「……なんだ」

「またお引越し?」


 不思議そうな目でこちらを見てくるミィに、トシヤは目を逸らしながら「そうだ」と答えた。するとミィは一気に表情を輝かせ、トシヤに飛びついた。


「おそば食べれる!?」


 無邪気に期待に満ちた目を向けてくるミィの頭に、トシヤは手を置いて撫でてやった。


「ああ、今度は食べような」

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