第4話 愛と妄執の引っ越し蕎麦 04
一週間後、瓦礫の山と化したA8拠点でトシヤは顔をしかめていた。A8拠点襲撃の報があったのは一時間前。ただちに近辺の特務捜査官が対処に当たったが、救援が間に合わず、複数の犠牲者が出てしまった。
「これで三件目ですね……流石に偶然じゃないでしょう」
「どこかから情報が洩れてるってことか……目星はついてるのか?」
「いいえ、全く。生き残った職員に聞き取りを進めているのですが、裏切り者も侵入者も全く見つからない現状で……」
一週間前に襲撃されたのはA7地点、三日前に襲撃されたのはA5地点。この近辺の拠点ばかりが狙われているのは明らかだった。トシヤは睨みつけていた監視カメラの映像から離れて目の間を揉んだ。
一方、侵入者を片付け終わり、元の姿に戻ったミィは、遅れて拠点にやってきた人影に気付いて大きく手を振った。
「あっ、イナちゃんだー!」
「イナちゃんじゃありません、17番です。何の用ですか、31番」
ロウ捜査官に連れられてやってきた17番は、心底嫌そうにミィを睨みつけた。ミィはそんな17番の様子を全く気にせずに、17番のもとへと駆け寄っていった。
「あのねあのねイナちゃん。トシヤがね、お隣のモモコと昼ドラしてるんだよ!」
「……は?」
突然何の脈絡もなく振られた話題に、17番は冷めた声で返答する。周りの大人たちは瞬間的にフリーズした。
「だってモモコ言ってたもん! トシヤとモモコは昼ドラなんだって!」
ちなみに「昼ドラ」とは最終戦争前のドラマを平日の昼に再放送しているものの総称で、その多くがドロドロとした人間関係を描いたメロドラマであることから、そういった人間関係を指す言葉となっている。
「トシヤは間男なんだよー!」
ミィは嬉しそうに大声で主張する。そんなミィに大股で近付いてきたトシヤは、ミィの頭にがつんと拳骨を落とした。
「どこでそんな言葉覚えたんだ……!」
「うわあああん! トシヤが殴ったーー!」
周囲の職員たちに再びざわめきが走る。しかし今度は昼ドラがどうとかという話ではなく、トシヤが怪物であるネコを殴ったことへの衝撃であった。
泣き出すミィに、ミィを睨みつけるトシヤ、混乱する周囲。そんな混沌とした状況を押し破るように、ロウはトシヤに声をかけた。
「あーうん、トシヤ、その、恋愛をするのは自由だが倫理に反するようなやつは流石にどうかと思うぞ……?」
「ち、違います、ロウさん。誤解です!」
トシヤは必死にロウに弁明した。ミィはぐずついているし、17番からの視線は冷たい。胃が痛くなるのを感じながら十数分かけてようやく誤解を解き、トシヤははぁと息を吐いた。
今回はなんとかおさめたが、人の口に戸は立てられない。このままでは誤解を生み続けてしまうだろう。なんとかしてモモコの夫だという人を見つけて、先手を打って説明しておかなければ。
トシヤはちょうど歩いてきた職員を捕まえて尋ねた。
「なぁ、ハンダタ町付近の拠点に勤めているサクラダという職員を知らないか?」
「サクラダ……? 知らない名前ですね……、その方がどうかされたんです?」
「いや、個人的な質問だ。忘れてくれ」
ぺこりと頭を下げて職員は去っていく。別の拠点の人間の名前を全員把握しているはずもないか。あとで職員リストで検索してみよう。そうやって内心で決めて、トシヤもまた後処理へと向かっていった。
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