第3話 ハロウィン式悪霊の丸焼き 03

 チン、と軽やかな音が鳴ってレンジが止まる。レンジの前でずっと中を覗きこんでいたミィをどけて、トシヤはレンジの蓋を開けた。


 中から取り出したのは、大きく切ったかぼちゃだ。レンジの蓋を開けた途端、甘い匂いが漂ってきてミィはトシヤの持つ皿に手を伸ばそうとする。


「熱いからやめなさい。火傷したいのか?」

「火傷は痛いからやだ……」

「だったらもう少しだけ下がっていろ。すぐに手伝うことも出てくるから」


 そう言いながらトシヤは柔らかくなったかぼちゃの中身をスプーンでくり抜き、ボウルに入れていく。くり抜き終わった皮は、また今度揚げておやつにでもしようと決め、横にどけておく。濃い黄色のかぼちゃの中身をフォークの裏側でつぶし、油を少しだけ加えてペースト状にしていった。


 だまがなくなるまで混ぜた後、薄力粉と砂糖をかぼちゃペーストに振るって入れる。木べら――はなかったので、しゃもじでそれをさっくりと混ぜ、生地はできあがった。


 生地を一つにまとめ終わると、トシヤはそれを冷蔵庫の中に入れた。30分冷やして、固くなるのを待つのだ。


「さてと、問題はこっちの残りか……」


 トシヤの目の前には、かなりの量が残ったかぼちゃがあった。このまましばらく放置してもいいが、折角切ったのだから早めに調理してしまいたい気持ちもある。トシヤはかぼちゃを取り上げると、まな板を出してきてその上に置いた。


 包丁を上に置き、体重をかけて一気に切る。思ったよりも軽い感触で、かぼちゃはすとんと切れた。


 この包丁は、包丁のために作られた合金でできている。なんでもこの合金を作るために生涯を捧げた一族がいるとかいないとか。まさに職人技の一品と言う訳だ。一般家庭にはまずない代物だが、レストランの厨房ではよく愛用されている代物らしい。


 そんな包丁で、トシヤはかぼちゃを一口サイズに切っていく。すとんすとん、という小気味いい音に合わせてミィが足元で踊っていたので、一旦手を止めて、ミィを台所から追い出した。


 戻ってきたトシヤは数分かけてかぼちゃを全て切り終わった。次に大きな鍋を出してくると、その中に水と酒と砂糖とみりんと醤油を入れて、混ぜ合わせる。(醤油とみりんは高級品だが、料理には欠かせないのでトシヤの家には常備されている。)


 鍋の中にかぼちゃを半分入れて、火にかける。もう半分は流石に多すぎたので後から煮ることにした。


 そうこうしているうちに30分が経ち、トシヤは固まった生地を冷蔵庫から取り出して、ミィの待つテーブルへと持ってきた。


「型抜きするぞ」

「はーい!」


 生地を薄く伸ばすと、トシヤはミィにクッキーの型を手渡した。ミィはきらきらとした瞳で、型をじっと見つめた後、そっと生地の上に型を置いて、上からぐっと押し込んだ。


「出来上がったやつはこっちに並べなさい」

「うん!」


 トシヤが差し出した皿にミィはどんどんくり抜いた生地を置いていく。トシヤはそれを微笑ましそうに見ると、火の様子を見に台所へと戻っていった。鍋の中身は水分もほとんどなくなり、完成は間近だ。トシヤはレンジをオーブン機能に切り替えると、180度にセットして余熱を開始した。


「トシヤー! できたよー!」


 しばらくしてからテーブルの方からかけられた声に、トシヤはミィのもとへと歩み寄る。生地は不格好なものもあったが、全てかぼちゃの形にくり抜かれていた。ちょうど、チン、という音がして、余熱が完了する。トシヤは持ってきた天板に改めてクッキーを並べ直すと、オーブンの中に入れてスタートボタンを押した。


 ずっと煮ていた鍋の火を止め、鍋の中を見る。中からは濃い黄色に染まったかぼちゃたちが甘い匂いを漂わせていた。


 ふと足元を見ると、ミィがじっと鍋の方を見つめていた。ミィはトシヤがこちらを見ていることに気付くと、あーんと大きく口を開けてみせた。トシヤは苦笑しながらよく煮えたかぼちゃを一個取り上げた。


「一個だけだぞ」


 ふーふー、と冷ましてやってからミィの口の中にかぼちゃを入れてやる。ミィははふはふと口を動かしてそれを飲みこむと、両頬を押さえて満面の笑みになった。


「おいしー!」

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