幕間

番外編 ごじつだん

 研究所に付属する病院からの定期バスを降りて、トシヤとミィは「灰の街」の繁華街へと降り立った。時刻は午後5時半。目当ての店――「アリス」はまだやっているだろう。


 トシヤは今までより心なしかゆっくりと歩きだし、ミィはその後ろを早足でついていった。


「ちーずっ、ちーずっ」


 楽しそうな鼻歌が後ろから聞こえてくる。正確にはチーズではないのだが、本人が楽しそうならもうそれでいいかとトシヤは訂正するのを諦めていた。


「ちーずっ、ちー……はぶっ」


 後ろで派手な音が聞こえてきて、トシヤはバッと振り返る。そこには、何もないところで躓いて顔から転んでしまったミィの姿があった。


「…………大丈夫か?」


 少し躊躇ってからトシヤは声をかける。


「……大丈夫、へーき」


 鼻を啜りながらミィは体を起こした。


 そういえば、とトシヤは思い出す。この個体は空間認識能力がまだ下手くそなのだったか。それで訓練でも細かい作業が苦手だったのだ。


 自分の力で立ち上がったミィに、トシヤはううんと考えた末に手を差し出した。


「手、繋ぐぞ」

「て?」


 目の前に差し出された手をきょとんとミィは見る。トシヤは言いづらそうに顔を歪めた後、ぼんやりと立っているミィの手を無理矢理掴んだ。


「また転ばれたら面倒だからな!」


 言い訳のようにそう言い放ち、トシヤは先ほどまでよりさらにゆっくりと歩き出す。


 ミィは最初、ぽかんとした顔をしながらトシヤを見て歩いていたが、やがて嬉しさの方が勝ったらしく、再び鼻歌を歌って跳ねはじめた。


「ちーずっ、ちーずっ!」

「だから、チーズじゃないんだよ」


 呆れきったため息をトシヤは吐き出す。そのまま二人は夕方の街へと消えていった。

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