イチオシの作品をひとに薦める、もしくは好きなものを好きというための文章――漫画『球詠』編【約2,100文字】

■前書き


前回同様ネタバレをする見込みである。それを忌避するひとは読まないように注意されたい。


■本文


球詠たまよみ』は硬式の女子高校野球を題材とした、TVアニメ化もされた漫画です。作者はマウンテンプクイチ、出版社は芳文社。芳文社の作品には4コマ漫画が多いですが、本作は4コマ漫画ではありません。先日(2024年4月11日)第15巻が発売されました。なお、わたしにはほとんど野球の経験がなく、野球を観戦する趣味もありません。


現実に硬式の野球をしている女子生徒の団体は少ないと思いますが、この漫画は男子の高校野球のような感じで女子が野球をしています。そうはいっても髪を黒の丸刈りにすることを強制されることもなく、無造作な髪型から何と呼ぶべきか分からない複雑な髪型まで、個性ゆたかに人物(=キャラクター)がデザインされています。投手などは投球時の見映えを意識してか長髪にデザインされている人物が多い印象を受けます。それにしても、これだけの人物を描きわけるのは至難の業に思えます。ひとによっては、同じようなひとがたくさんいて混同してしまうかもしれません。


我らが舞台の新越谷(以下「新越」)の野球部は、かつての強豪校でありながら、主人公らが入学する前の年度に停部の憂き目にあいます。そのどん底の状態のときに、主人公の武田たけだ詠深よみらの周りに運命のようにひとが集まり、物語が動きだします。


当初は外聞のわるい理由で停部になっていた事実のために偏見にさらされ、他校の生徒から心ないことを言われることもありました。そのうえ、主人公の詠深※自身もみずからの武器を否定される発言を過去にされており、当初は他の追随をゆるさないような投手としての能力を生かして全国を目指すつもりはなかったようです(新越への進学理由は制服となっています)。


しかし新越の名声が高まるに連れてそのようなことはなくなって行きます。第14巻では、そのチームでの出場機会(を得ること)などを理由に新一年生が6人も入部してきたほどです。なお、詠深らが入学した年には三年生の部員がおらず、当時の一年生がチームの主力でした。二年生は3人だけでした(うち1人は途中で入部)。何はともあれ、新一年生らの動きが今後の楽しみのひとつと言えるでしょう。


新体制の部では、硬式軟式あわせて投手の経験者が6人ほどいますが、捕手は2人だけのようです。詠深の同級生の捕手で、互いに仲が良すぎるきらいのある山崎やまざき珠姫たまきがチームの「扇の要」とされるのには、そのような事情もあるのかなと思います(最新巻を読んで捕手のたいへんさを思いました)。ちなみに、わたしは生まれ変わったら野球(か囲碁)をしたいと思っていますが、配置(=ポジション)は投手が良いです。


珠姫によると、チームのエースは詠深のようです。詠深とおなじかそれ以上に注目されているであろう同級生の中村なかむらのぞみは格別のミート力を持ち、全国で戦ううえで絶対に欠かせない逸材です。その実力は上級生もじゅうぶんに認めるところのようです。珠姫が希ではなく詠深をエースとしたのは、主力の投手であるためか伸び代もふくめた能力のためか、誰よりも精神力(=メンタル)が強くて声を出すことを惜しまずにチームの士気を高めるためか、はたまた欲目のためかはわたしには分かりません。


15巻まで出ているわけですが、わたしにはお気に入りの場面があります。第2巻の柳川大学付属川越高校(以下「柳大川越」)との練習試合での、二年生の速球派の投手、朝倉あさくら智景ちかげとの対決の場面です。豪快な速球で立て続けに三振を奪って行くのは何とも痛快で見応えがあります。わたしはこの朝倉選手の颯爽としたところに心を奪われます。また、同校の大野おおの彩優美あゆみのことも好ましく思っており、素敵なチームだと思います。同校の再登場が待たれます。


新越が復活した最大の功労者が誰なのかはあまりにもむずかしい問題です。エースの詠深や安打製造機の希はもちろん、部が活動停止を強いられても再生を期して部に籍を残しながらクラブチームで活動していた、主将(=キャプテン)の岡田おかだれい藤原ふじわら理沙りさ、希を部に引きこむことに成功し、参謀として強豪相手にチームを勝利に導いてきた川口かわぐち芳乃よしの、希が不振(=スランプ)に陥ったとき、身を挺してその後輩のために動いた川原かわはらひかりなど、候補をあげれば枚挙にいとまがありません。野球には個人競技の側面もあるとのことですが、やはり団体競技であることは疑うべくもないと思います。


わたしは野球のことをよく分かっていませんが、もっとも好きな漫画を問われれば本作と答えます。高校野球やプロ野球にくわしいひとならわたしとはだいぶ見え方が変わるかもしれません。また、「百合」(=GL)が好きなひとの需要も満たしてくれるかもしれません。女性よりは男性向けの作品と評して良いかと思います。


■後書き


ここまで読んでくださりありがとうございました。気をつけてはいますが、事実誤認もあるかもしれないことをなにとぞご了承ください。有名で話題になっている漫画だけが漫画ではないことに思いを致してくださったら、わたしとしては幸いです。


※ わたしは、二次元の人物も三次元のひとも等しくちゃん付けをしない人間です。

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