ウメとサクラとモモ【約1,900文字】
今年もサクラとモモ(の花)の季節がやって来た。元来モモは、上巳の節句(節供。≒ ひな祭り)の時期に花を愛でる植物であった。近代にスイミツトウ(水蜜桃)(=スイミツ)のような品種が普及するまで、単に「モモ」といえばその花を指したにちがいない。「わが衣に伏見の桃の雫せよ」なる句は、当然その花を題としているであろう※1。
典型的なモモの花は淡紅色であるらしい(食用の品種はいざしらず)。大輪の一重のシロモモ※2や、濃紅色のヒモモもある。大伴家持(717/718-785)が「紅にほふ桃の花」と歌っていることからも、ピンクの花を咲かせるモモがいち早くこの島に普及したことが察せられる。ももいろことピンクは、食用の品種の果皮の色であろう。
上巳の節句は当然だが旧暦の3月3日に取り行われた。したがって月は夕方には沈んでしまうどおりである「梅の月」「花月夜」「桜月夜」とは言っても「桃の月」や「桃月夜」は寡聞にして知らない。
モモはサクラより少しだけ遅く咲くらしい。わたしはそれに懐疑的である。「遅咲きのモモ」も「早咲きのサクラ」も聞かないが、品種の多いサクラのこととて、モモに遅れて咲くものもひとつやふたつではないと考える。ちなみに、北海道ではウメとサクラの開花の順が逆転すると聞く。モモはどのタイミングで開花するのかしら。
古今集のころまでは、花はウメであった。それは原産地の中国でもおなじである。その後、日本では花はサクラとなり、中国ではモモとなった。中国でそうなった経緯はしらない。
ウメは白花のウメ、すなわちシラウメが先に導入されたと言う。その後ながらく、単に「ウメ」といえばシラウメを指した。『枕草子』でもウメとコウバイ(紅梅)は区別されていると聞く。
五節句の最初は、一月七日の人日である※3。日本では七草粥を食べる風習くらいしか残っていないが、個人的にはその日をウメの節句としたい。
モモは開花の時期こそサクラにより近いが、花のつき方はウメに似ている気がする。わたしはモモの花をよく見る機会を逸しつづけているが、幹はウメのように黒っぽくならずサクラに似ているイメージもある。葉はサクラよりウメに似ているイメージがある。
ウメとモモの花には芳香があるが、サクラにはないらしい。なのだが、わたしはサクラ、それもソメイヨシノ以外の匂いを感じたことがない。ソメイヨシノの花には匂いがあり、量が圧倒的に多いことも手伝ってわたしの鼻をくすぐるのだろうか。
サクラはソメイヨシノが開発されるまで、ヤマザクラやオオシマザクラが多かったかと思っている※4。今やちまたはソメイヨシノ一色になりかけていて、その品種の花で一面が埋めつくされるさまは見事だが、わたしは他の品種も恋しくなる。
武士はとうの昔にいなくなったのだから、サクラも散りやすさだけでなく、変異(=バリエーション)の多さなどにもっと焦点を当てていっても良いかもしれないと思わぬでもない。なお、わたしはいまのところシダレザクラ(=イトザクラ)に一票を投じる気持ちでいる。ヤエザクラはさほど好きではない。
余談だが、一年の前半のころはボケ・カイドウ・ヤマブキ・バラなども花を咲かせ、バラ科植物の天国のようだと思う※5。
また、この文章の題(エピソードタイトル)は「ウメとサクラとモモと、ついでにキク」にするつもりだったが、キクに言及するまえに気力が尽きてしまった。忘れたころに文章化するかもしれない。
※1 スイミツの果実から雫がしたたり落ちるのも様になると思うが、 現在伏見に植わっているであろうモモの品種をわたしは知らない。関西住みのわたしでさえ伏見をモモ(の実)の産地と認識しておらず、「伏見のモモ狩り」なども聞いたことがない。食用の品種は少ないかと推測する。
※2 「ハクトウ」は「オウトウ(黄桃)」などに対して身が白いモモをいう。さる辞典では、「白桃」はシロモモと訓じるかハクトウと音読みするかで指示するものが変わるするが、ハクトウを白花のモモの意で用いるのも誤用とは言い切れないようである。
※3 なぜ一月の節句を一日にしなかったのかと、なぜ十一月(の十一日)が節句になっていないのかは、わたしにとって永遠の謎である。
※4 わたしは多くの和歌や俳句(≒ 発句)に目を通してきたが、サクラの花の白さをよんだ作品は多くない印象を受ける。あるいはウコンザクラ(=ウコン、アサギザクラ、キザクラ)のように、白いサクラばかりが植わっていたわけではないのだろうか。
※5 もっとも、四季咲きのバラは通年見られるようである。
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