雪のような
おとうふ
白
今日は12月25日 厳密に言えば後15分程で日付が変わり25日になる。
世間一般はクリスマスという日だ。
クリスマスとはイエスキリストの降誕祭。
他宗教なこの国は様々な宗教のイベント事をいいとこ取りしている。
クリスマスになるとイルミネーションを飾る所が増えプレゼントやケーキを買って帰る人が多くなる。恋人や家族と過ごす為だ。
私はというと今日も変わらず会社で残業。恋人も居ない一人暮らし。家に帰っても誰も待っていない。
そんな皮肉なクリスマスは一応私の誕生日でもある。だが私は周りにそれを言わない。恋人が居ないクリスマスが誕生日の人間。バカにされるに決まっている。そのため敢えて二日ほどずらして教えている。
幼い頃から両親が共働きの為誕生日を当日に祝ってもらったのは小学生の時以来だったな。と一考しながらパソコンと向き合い。終わる頃には日付は変わっていた。
今年も仕事場で誕生日とクリスマスか。そんなことを思いながら茶色の長い髪を一つにまとめ、パソコンをシャットダウンして荷物をまとめているとコツコツと足音が聞こえてきた。
警備員かな。早くしないとまたこっ酷く叱られる。そんなことを考えていると声が聞こえた。
「先輩まだ残ってたんですね」
ひょこっと顔を出したのは黒いセミロングで10代の幼さの残るワンピース姿の女性。今年の春に入社し私が指導を任されている。
「なんだ
彼女の姿を確認するなり私は椅子に座った。
「なんだとはなんですか!!せっかく可愛い後輩が様子を見に来てあげたのに!」
彼女は少し怒った様子で私の隣に座った。
「どうせ仕事終わらなくて残ってたんでしょ」
緊張感が抜け口元が少し綻んだ。
「先輩はまた部長に押し付けられたんですか?ちょっと顔疲れてますよ?」
私の顔色を伺いながら彼女は心配そうに見つめてきた。
目が合うと少し恥ずかしくなり咄嗟に目を逸らした。
「そう。独り身は仕事しろってさ」
照れ隠しに携帯を開きメールのチェックをした。
お察しの通り、私は彼女に密かに想いを寄せている。
元々私はレズビアンだ。けど彼女は恐らく違うだろう。綺麗な髪に整った顔立ち時々見せるあどけない表情。学生時代(今も)凄くモテたんだろうなと思える女性。言えるわけも無く秘密にしている。
そんな私の想いを知る由もない彼女は時折こうして顔を出しに来る。正直とても複雑だ。
でも彼女とのこの楽しい時間を無くしたくはない。
「あ、そうそう先輩差し入れです」
鞄の中から出したのはカクヨムと書かれたお酒。ご丁寧に2本ずつ。
「…こらこら仮にも職場だよ」
そう言いつつお酒が好きな私は一つ手に取り缶の口を開けた。一口飲んで
「はぁー。 仕事のあとの1杯は最高だね」
おっさんのような台詞を放った。
「お酒飲めるっていいですねぇ」
同じように彼女も一口飲んでため息混じりに言葉を吐いた。
「…折角のクリスマスなんだからわざわざ家族とか恋人と過ごせばいいのに」
二口目を口に運びながらそんなことを呟くと彼女は少し困ったように笑った。
「私家族は事故で亡くなってるんです。彼氏も居ないし」
彼女のプライベートな話を聞くのはこれが初めてだった。普段そんな素振りを見せないために言葉を失ってしまった。何と声を掛けていいか分からずに沈黙がこの場を支配した。
でも彼女は笑顔を見せ
「独り身同士飲み明かしましょうよ!」と飲みかけの缶を私のに当て乾杯と小さく呟いた。
お互いに缶を二つほど飲み干してから飲み直しのため私の行きつけのバーに行く所にした。お酒はに強いほうだが程よく酔いが回っていたため気分が上がり腕を組んで歩いていた。そしてバーに着き3杯目を飲み終わりそうな時彼女は目をとろんとさせ欠伸をしだした。
「眠くなってきた?」
時計を見ると3時を指していた。
「…ちょっとだけ」
今にも寝ていきそうな彼女の頭を撫で、帰ろっか。
マスターにチェックをお願いし、タクシーを呼んでもらった。
「もうタクシーくるから頑張って起きて」
「…おきる」
言葉では言うものの目は既に閉じている。これは駄目だ。私は彼女の家を知らない。どうしようか悩んで下手にどこかのホテルに連れてくよりはマシかと思い、家に連れていくことにした。
タクシーに乗って10分程で私の住んでいるマンションに着いた。肩に腕を掛けて部屋まで運び、自分のベッドに寝かせた。彼女は起きる様子もなくすやすやと寝息を立てていた。
私は少しため息をついて水を一口飲みベッドの横に座った。寝顔をちらりと見てからベランダの扉を少し開けベッドにもたれ掛かるように座り煙草に火をつけた。職場や外では吸わないが自宅で落ち着かない時に時折吸っていた。
「…何やってんだか…」
ため息をつきガックリと項垂れていると首元に体温を感じた。
驚いて振り返ると薄目を開いた彼女の手が首元にあり、彼女と目の前にあった。
「…先輩煙草吸うんですね」
見られた。別に隠すつもりはなかったため 吸うよ。と軽く返事を返した。
彼女は私の首元に顔を近づけると
「…煙草と先輩の匂い混じってる」
と呟いた。
私は彼女を直視することが出来ず赤く染まった頬を見られないようにベランダの方をむいたまま
「…それ他の人にしたら勘違いするからやめた方がいいよ」
と忠告した。
「…先輩は勘違いしないんですか?」
彼女の唐突な質問に驚き振り返る。こちらを見つめたまま目を逸らすことなく私の首に手を回した。お酒のせいだろう私も彼女も。それを理由にすれば深く傷つくことはない。そう思いながら彼女の唇にキスをした。
「…先輩…すきです」
ぎゅっと目を瞑ったまま私に告白をする彼女に
「…お酒が回ってるせいだよ」
といいつつ彼女に覆いかぶさるように座り続けてキスをした。
今までもそうだった。お酒が入ったら人は誰でも好きだと言い出す。朝になるとそんな事は言っていないと。でも彼女は
「…入社した時からずっと先輩が好き。こんなにアプローチしても全然気付いてくれないし…今日だって先輩が残ってるって聞いたから…帰宅途中だったけど引き返したんです…」
その言葉を聞き、手を止め彼女の顔を見た。真っ赤になった顔を両手で隠そうとするも華奢な腕にはそんなに力はなく片手で簡単に引き剥がせた。目に涙を浮かべてこちらを見る。
「…お酒が回ってるからじゃないです …信じてくれないでしょうけど」
顔をそらそうとするがもう片方の手でこちらを向かた。
「…本気にしていいの?そんなの言われたらもう止められないよ?」
彼女は私の言葉に少し驚いた顔した。
「…私だってずっと玲が好きだったんだから 今日だって手出さないようにするの必死だったんだよ」
額を当て軽くキスをする。
「…本当に?嘘じゃない?」
疑いの眼差しを向けられる。自分のシャツのボタンを外しながら
「嘘で誰でもよかったら最初の頃に手出してる」と彼女の頬を撫でた。
彼女は嬉しそうに涙を流し、全身の力が抜けるのを感じた。私は彼女の首元にキスをすると彼女の口から可愛い声が出た。その声に興奮し少しづつ服を脱がしながらキスをした。
この日初めて愛し合う事を知った。
一方的で一時的なものでは無い愛を、彼女に教えてもらえた。そして彼女を愛することを誓った。
雪のような おとうふ @otoufu0644
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