最終話:JAPAN→

目が腫れるほど泣き友人の家を辞去した。返すつもりで持参していた友人の本は結局渡さなかった。

もう動けない彼のためにふと連れて行ってあげようと思ったのだ。遠くへ、できるだけ遠くへ。

いつか彼が好きだったスイスへ行こう。そこで旅行者にこの本を渡そう。

誰かに読まれ、あるいは連れられて彼の本はこの青空の下を行くだろう。そうして別の誰かの手に渡り、様々な国の空を見るのだろう。


僕は帰りの電車の中で、本の裏表紙をめくり彼の文字の隣に「JAPAN→」と書き加えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そうして、誰かの一冊に。 浅野新 @a_rata

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ