なみのおとは

なみのおとは むざん

なみのおとは むざん

むざんなひびきが とおいこえ

むざんなひびきが とおいこえ

とおいこえ

とおいこえを ころして

こえを ころして


啜り泣く

想いを抱き啜り泣く

砂に埋もれた想いをようやくに掘り出し

砂にまみれてようやくに掘り出し

啜り泣く

無惨に啜り泣く


ざん と なみがうつ

ざざん と なみがうつ

なみがうつ

わたしをむちうつ

むざんななみが わたしをむちうつ


紅く掠れた音が

無惨に

ざん、と

わたしを笞うつ


遠い声が私を招く

ざざん、と招く

まだ招く

まだまだ招く

その招く声に

紅く招く声に

私は融けてしまいそうに揺らぎながら

くらくらと

くらりくらりと

ぐらりぐらりと

ゆれて

ゆらいで


わたしは ただ たちすくみ

ざん

ざざん

たちすくむまま

ざざん ざん と


波の音が蔓となって幾重にも幾重にも

わたしの肌に食い込んでぎりぎりりと

食い破り 食いちぎり

絡む からみつく 絡みついてわたしを

わたしを千切り


ちぎり


しずみ


なみのおとは むざんなり

なみのおとは むざんなり

なみのおとは ただ むざんなりと

こえをかぎりに さけべど きこえず

きこえぬままに つたはからまり わたしをちぎる


引き千切られたわたしは

いくつもの貝になって

砂に埋もれ

契る

無益に契る


やがて無数のわたしは

孕み

無数の闇を産むだろう

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