第3話 神があなたを通して猫を愛した

 メアイとメーイェが目を覚ました。神の子たちの朝だった。

 ルビヤとユリスは傍らにいた。

「おはよう。メアイ、メーイェ。私たちの子どもたちよ」

 メーイェは身体の光輝いている二人の天使の姿を見て、太陽から来た人だと直感的に思った。太陽の楽園に向かって旅をしている途中、崖から落ちた自分を助けてくれたのは、太陽の人だったんだ、とメーイェは心を揺さぶられた。崖から滑り降りた先は、太陽の実る楽園だった。

 いくつかの言葉と、親子の間の絆の抱擁が交わされ、天使が連れてきた小鳥たちが、初めての歌を覚えた頃、神の子の家族たちは果実を収穫しに出かけた。犬や猫や兎が、彼らの後をついてきた。沢山の蛇たちも、子どもたちと並んで、遅れないように懸命に這いずってきた。

 天使は人を愛した。家族は泉の湧水で喉を潤し、香り漂う花畑に足を運んだ。子どもたちは養父母である天使たちの育みによって、宇宙創造神の大自然の教えを花園の中で学んでいった。

 犬と猫が馬跳びの練習をするようにじゃれ合い、蛇たちは林檎を食べるのに、余念がなかった。兎は耳を拡げて、何かの音をじっと聞き取っていた。その隣でメーイェは草の上に、膝を折って座った。眼を瞑って、兎の真似をするように、耳ではなく両手を広げて、穏やかな陽光と風を感じ取っていた。メアイは手頃な岩に腰かけて、林檎を齧りながら、そんな様子のメーイェを見ていた。メーイェの白い髪が、一瞬、黒くなって、また白くなっていった。思わずメアイは目を擦った。天使のルビヤとユリスが立ち尽くしていた。神の子の話をしよう。

「神の子ってなあに?」メーイェはルビヤに訊いた。

「人は神の子として創造されている。メーイェもメアイも私もユリスもだ。例えば、あなたが猫を愛することで、あなたの中で眠っていた神が静かに歓喜するだろう。猫の中で眠っていた神も、あなたから愛を受けたことで、神の音楽に目覚めて踊り出すだろう。神があなたを通して猫を愛したのだ」

 遊んでいた猫が急に話しかけられて驚いたのか、時を止めたようにこちらを眺めていた。


 天使たちはメアイとメーイェに、花々は初めから神の愛を受けて咲いているわけではなく、神の子に愛されることによって、初めて愛されたことを実感して、その美しさは限られた生命の中で、もっと輝いていくのだと語った。花だけではなく、蝶も小鳥も魚も、すべての動植物は、何者かに愛されるのをずっと待っていた、それが神の子なのだ、と教え諭した。

「あなたたちが今まで花園の世界で目にしたものは、あなたたちに出会うために生まれてきたのよ」とユリスは言った。


 どこかから、笛の音がしたが、そのとき、笛を吹く者は誰もいなかった。

 きっと、風の悪戯に違いない。


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