第99話 ルビヤの石
あなたは占い族の人間と出会ったことを思い出している。彼らはあなたの心に浮かんでは消えていった。あなたの心の中に占い族の村はあった。直接、村人と会ったときには、あなたは一瞬死んでいたので、あなたは気付くことができなかった。それはあなたが別の世界に住んでいることに起因する。あなたが魚占い師と呼ばれる前には、あなたは本の外側にいた。あなたが手に取っているこの本の外側だ。人と会うとき必ずその三日前に死ぬという呪いは、本の外側にいるあなたとの約束事だった。
本を読むということは、本を読んでいる自分を、元の世界から殺していることに等しい。あなたは、現実に占い族の人間とも会ったし、占いによってすべてを見ていた。復活したあなたは、そんなことがあったことに気付かずに、ただ本を読んでいたという事実だけが残された。
あなたはこの物語を読み始めたときから、魚占い師という役割を与えられていた。
あなたは魚占い師が手に取った水瓶の世界を、本という形で見ていたし、読んでいた。
あなたはどこかで魚占い師という存在を気にかけていたはずだ。あまり目立たないが、何故か不思議な印象をあなたの中に残していたはずだ。それは水瓶の水面に時折、映り込む、あなた自身が本を読んでいるときの顔だ。
あなたは魚占いによって、得ることができた秘密を、占い族の人々に告げ知らせてやりたいと思った。でもあなたには、できなかった。運命は書物のようにすでに書かれていて、誰もその束縛から逃れることはできなかったし、あなたは三日前に死んでいて、本の外側の世界に戻ってしまったからだ。
私はあなたがここまで読み進めるのをずっと待っていた。
私はこの本そのものだ。本の一字一句のすべてが私だ。
私は「ルビヤの石」という題の書物だ。
あなたがこの本を読むことを、私は知っていた。
本棚から、この本を手に取るあなたが見えた。人から手渡されて、この本を開いたあなたが見えた。あるいは道に落ちていたこの本を拾ったあなたが見えた。
急に本が語りかけたら驚くだろうと思って、あなたがこの本を読んでいる間、私はずっと黙っていた。印字された文字に触れられたときに、くすぐったいのを我慢していたこともあった。
あなたが手に取りやすいように、自分からあなたのそばに、近付いていったこともあった。あなたに気付かれないように、あるとき、あなたがこの本を手に取るように。
私は事前に占いによって、あなたがこの項まで読み進めることを知っていた。重ねられた紙の奥から、あなたが、項を一枚ずつめくって読んでいくのを黙って見守っていた。私は本占い師ならぬ、本の占い師だ。
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