第97話 一番弱かった私が一番初めに

 そう。プーが死んだあのとき、ミトレラは泣きながら異端審問騎士団に号令をかけました。『悪魔ルビヤの村をこの世から消し去れ、村人を皆殺しにしろ』と。希望を奪われた者の、神に対しての怒りの絶叫でした。十二人の騎士たちが、一斉に剣を抜きました。柵の中にいた私たちは真っ先に十二人に狙われました。私、ネビアとマージョリーとインダとブンボローゾヴィッチは啜り泣くのを止めて、震える足で立ち上がり、各々占いの道具を武器にして互いの背を守って移動しながら応戦しました。私も涙を流しながら、一本の赤い薔薇を手にして。薔薇の棘で一人くらい道連れにしてやる。そう思いました。一番弱かった私が一番初めに、騎士の振るう冷たい剣の刃に斬られて殺されました。薄れゆく意識の中で、地面に染み込んだプーの血を飲んだのです。インダは右腕と左腕の表面を列になって走っていくムカデを、繋ぎ合わせてできたムカデの鞭を振るって、騎士の剣を防いで対等に渡り合っていました。二人を逃がそうと自分に注意を向けさせていたために、インダは三人の騎士に同時に刺されて絶命しました。拳だけで闘っていたブンボローゾヴィッチも敢えなく命を落とし、マージョリーは半殺しにされて、楽しみを最後に取っておくためなのか逆さにされて櫓に吊るされました。その後、騎士たちは逃げ惑う村人を蹂躙していきました。ザナトリアは渾身の力を込めて壺で騎士の兜に叩きつけましたが、別の者に脇腹を槍で刺されて血を吐いて崩れ落ちました。マイユは沢山の金貨を宙にばら撒き、騎士たちが見上げている間に、低姿勢で駆け抜けて敵の懐に忍び寄って、金の短剣で殺害を試みましたが、騎士に気付かれて大楯で防がれて、首を一文字に掻き切られました。ベーテは野次馬の中に紛れ込ませていた無数の人形たちの中を、プーの人形の中を、ブザーの人形の中を光の速さで移動して、騎士の裏をかこうと機会を狙っていましたが、すべての人形は壊されてしまいました。このとき占い娘の一人が、群衆の中を歩いているプーの人形を目にしていたのです。プーと目が合った瞬間に背中を斬られました。占帝元老院は、騎士団全員の武器の軌跡や守らなければならない村人たちの動きを、両手の指の占いで見切って、素早く一人の騎士の間合いに入って走り抜け、すれ違いざまに騎士に催眠術をかけて、開いた頭から飛び出した大脳の鍵を手に入れましたが、隙が生じたのか遠くから狙っていたミトレラの拳銃によって射殺されました。子どもたちを守るために、騎士団の中に三人の裏切り者が現れました。鍵を盗まれて幻惑された騎士は、村人と騎士の認識を入れ替えられて、村の子どもたちを仲間だと勘違いし、仲間の騎士を敵だと思い込んで戦っていましたが、頭を強打されて我に返りました。最後にベーテが移動していた十三人目の騎士の人形も、如何せんにわか仕込みの剣技なので、騎士に敵うはずもなく簡単に壊されました。最後まで裏切り者として騎士と戦っていたのは、ムカデに寄生されて鎧の中身を食われた騎士でしたが、裏切り者呼ばわりされて、首をなぎ払われました。剣の刃を何度もその身に受けながらも、催眠術で敵の戦力を奪い取っていた占帝元老院は、目の前で子どもが倒れているのを目にし、催眠術で生き返そうとしましたが、もはや手遅れでした。やがて守るべき村人が一人もいないことに気付き、生きていく意思と存在意義を失った占帝元老院は、ようやく占い族の総意から任を解かれて、『私は不死身である』という催眠も解けて、思い出したかのように死んでいきました。傷だらけの悪魔のように。

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