第92話 残虐性によって考案された

 村では物々しい騎士団が柵を設置し、槍や剣を手に取って、村人を柵の外に追い払うようにして威嚇しました。柵の中のミトレラ異端審問官は言いました。

『オーゾレム議会に、このような複数の陳情書が民から提出されました。占い族の村に、救済者の初罪消滅者メサティックが現れたと、いや悪魔ルビヤが受肉した子が現れたと、いやいや異端の神の王ジュリアン・サロートが現れたと。私たちは酷く混乱しました。それでこの村にやってきました。この村で何が起きているのか、事の真意を確かめるためにです。あなたがプーですね』

 プーは騎士たちにひっ捕らえられていて、すでに縄で両手首を縛られていました。足首には心臓の形をした爆弾が鎖で繋がれていました。

『馬車の中に様々な異端者拷問器具が用意されてあります。死んだ母が好きだったもので。手と頭を固定するガミガミ娘のバイオリンから、八岐の鞭まで何でもあります。今回は私が考案し作らせた物を使用します。ルビヤの水槽を用意してください』

 ミトレラの命を受けて荷馬車の中から、水槽や機械やチューブなどの部品が、騎士たちに取り出され、見る見るうちに組み立てられました。

『人心を惑わす悪魔なら、ただ処刑するだけで済むのですが、もし救済者なら、メサティックと名付けて迎え入れねばなりません。また神の王は救済者と同一であるというメサティック輪廻原論という学説もあります。人類を救うために神の王は成長しているのです。でもそれならば、神出鬼没のジュリアン・サロートは何故、大公オゾンを滅ぼそうとするのでしょうか? 答えは簡単です。反乱軍と結託しているだけの偽者の神の王がいるのですよ。眠りの騎士団の名を利用して民衆を煽っているだけです。その背後には悪名高い魔法結社ハーリカ=タビラがいるかもしれません。それならば拷問にかけて、反乱軍の情報を聞き出した後に、見せしめに処刑しなければなりません。神の王は真贋どちらにせよ、逆さメサティックにしかなり得ないのです。また神の王の名は、世界を統治するための方便になり得ます。だから無限に現れたほうが都合が良いのです。あるいは眠れる書物の成立段階から、悪魔の手によって捏造されていたのかもしれません。救済者は決してそのような存在ではありません』

 プーは上半身を裸にされて、肩から腰にかけて体にいくつもの針を刺されて、恐ろしい機械の付いた空っぽの水槽に入れられました。縛られた腕を胸の前で交差させて、体を震わせながら蹲っていました。見せしめのためか観衆によく見えるように、階段の付いた台の上に載せられていました。水槽の上に硝子でできた牛を模した大掛かりな機械が被せられました。針と繋がっている透明のドレーンは、プーの血を勢いよく吸い上げて、一旦、牛の心臓の形をしたポンプに集められて、牛の硝子像の前方部、牛の顔を模った噴出口から大量の血を吐き出しました。プーは牛の体内を循環して流れ出る自分の血を、ぼんやりとした目で眺めていました。プー自身が収まった水槽の中は、すぐにプーの血で徐々に水嵩が増えていきました。不毛な自動瀉血機でした。悲しき血の調和でした。異端者に自白を迫るために、人の残虐性によって考案された悪魔のような拷問機械でした。プーの背中から血の翼が生え、その姿は赤い天使のようでした。


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