第91話 罪の重さの鏡映し

「覚えていますか? 占い族の村から忽然と姿を消した私のことを。人形を自分の代わりにして花葬式を偽装した私は、同じ時間に村から離れた場所にある棺桶の中に入っていました。世界の次元を移動するという、ベーテに授けてもらった訳の分からない夢魔術です。永い夢から目覚めると、棺桶の蓋を開けて、この世界にやってきました。そして私はプーが自殺した日、村で何が起きていたのか、のすべてを知るに至ったのです。

 悲しき男がいました。花柄模様の覆面を被った彼の名前は、ミトレラ・オゾン。ある時は執事長、ある時は死刑執行人、殺人ゲームの達人、バイオリン弾きと色々な顔を持つ男でした。牢獄に収監されたわずかな間だけ、神の王ジュリアン・サロートになった、牛頭大公とハーリカ=タビラの魔女ストーカーの子メサエスとは異母兄弟で、メギドの隠し子であり、エリーの受胎告知の神の子プーとは異母兄弟。オゾン大公の秘密の異母兄弟の真ん中の子、表向きにはピサンドラ公爵夫人の子ミトレラは、大公妃と霊的奴隷の契約をし、その悪魔ルビヤの陰体との、針刺の契約を無効にするためには、全人類の霊魂の三りん(注・三パーセント)分の署名を集めて来なければなりません。そんなことは事実上、不可能です。

 村にやってきたとき、ミトレラは異端審問官でもありました。占帝元老院は、十二人の異端審問騎士団たちの破滅の軍靴の音を前もって占っていました。占帝元老院は、少々ひねくれたところもありましたが、彼らは彼らなりのやり方で、占い族の村を守ろうとしたのです。占帝元老院の生涯は、責任転嫁に満ちていました。私たち占い族は、占帝元老院に責任を追及することはできないのです。何故なら、私たちが日々、考えていることが集合意識として集まり、占い族の総意が形成され、占帝元老院はその補佐として想いを現実に創り上げているだけです。占帝元老院を更に後ろから操っている者は、占い族の村人の一人ひとりだったのです。それは占い族の罪の重さの鏡映しといってよいでしょう。占帝元老院は未来永劫、その秘密を隠し通すこともできたはずです。それなのにも関わらず、何故、占帝元老院は人に会う三日前に死んでは生き返って、を繰り返すあなたに、ある日、唐突に語りかけてきたのでしょうか。

 占帝元老院は必死に隠していましたが、プーは『悪魔ルビヤは、本当は悪魔じゃないよ』とか『大昔の人間に罪をなすりつけられて悪魔呼ばわりされてしまった天使のことだよ』と村人や客に言って回りました。村人たちはルビヤが悪魔ではないなんて恐ろしい、それは困る、悪魔がいなかったら、誰のせいにもできないではないか、黙らせなければ、聞かなかったことにしよう、本当に神の子なのか? プーはやはり悪魔の子だ、いつか村に災いを及ぼすだろう、と密かに怖れ、当然のことながら占帝元老院もそれを感知しました。いつか異端審問官がやってきて、村を破滅に追いやるだろうと占いました。プーを神の子として祭り上げてしまったことが、仇となってしまったのです。プーを黙らせなければならない。いやもはや手遅れだ。悪魔ルビヤの子として殺さなければならない。だが自分たちの手では殺したくはない。占帝元老院はこれ以上、噂が広がるのを阻止するために、異端審問官がやってくる前に、村の英雄的象徴であるドラクロワにプーを殺させようとしたのですが、ドラクロワに暗示をかけるのは困難を極め、結局は間に合わなかったのです。

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