第70話 誰が真の占いの天才であるか


 人間たちがどのように努力をしても、神の失敗はもう誰にも直せない。神の手違いから不老不死という聖なる呪いを与えられた後、絶望の日々の末、辿り着いた棺桶の中に死んだように眠り、やがて洪水が起きて莫大な時が流れ始めた。


 爆弾を抱いているとオゾン大公妃は安息を得ることができた。二度と抱くことのできない赤子の幻影が爆弾に重なっていたのかもしれない。そのようにして大公妃は爆弾を愛した。女中などは密告を恐れて、誰も口に出して言わなかったが、夫人は、狂っていた。

 爆弾は天井に向かって投げられる。失われた子どもに似ている爆弾が天井から落ちてくる。曲芸師が操る爆弾は四個から五個と増え、空中に不思議な軌跡を描いた。それは大公妃が居眠りするまで、三時間も続いた。


 マイユとアレフオは無蓋馬車に乗って占い族の村の門を出た。盗賊団にいたときに手綱を握った経験があったアレフオが御者を務めた。

「アレフオ、これから僕は遠くの国の王という触れ込みで行くからな。そうだな。適当にマユラ国の王でいいだろう」

 マイユは大公邸に乗り込み、ブザーを救出する計画を立てていた。占い師であることを隠し、大公妃と賭けをして、勝ったら奴隷を一人頂く。

 マイユは村の広場の地面の上に、かなり大きめに作成した大公邸の間取り図を広げて、櫓の上に吊るしてある結構な重量のありそうな袋に向かって、鋭く短剣を投げて穴を開けた。破れた袋の穴から次々と二千個の金貨が音を立てて零れ落ち、落下先にある大公邸の間取り図に落ちていった。すべての爆弾の位置を正確に占った。空から金貨が降ってきた、とザナトリアとザナンタとニービュックが、猛烈な勢いで金貨の海めがけて突進してきた。もちろん、マイユはこうなることも事前に占っていた。だから、アレフオがいる。腕を組んで待ち受けていたアレフオは、三人が横を通り抜ける瞬間、右手でザナトリアの首を、左手でニービュックの首を素早く押さえ、股の下をくぐって抜けようとしたザナンタを両脚で挟んで捩じった。マイユはその間に、金貨の周りを鉛筆でなぞって、間取り図に爆弾の位置を書き入れた。村のこどもたちも、マイユが始めた面白い遊びに付き合ってくれた。このようにして難攻不落の大公妃の爆弾城の攻略図が出来上がった。


 マイユはプーの手紙を読んでから、プーの書物のような占い、ブザーは二度と生きて地下牢から出ることはない、という占いを、ただの紙のように破り捨ててやりたい、と思うようになった。マイユの体を流れる占い師の血が騒ぎ、ブザーを助け出すことで、自分はプーに勝てるのではないかと決め付けていた。プーは、自分が父親に宛てた手紙が、マイユに読まれることを前もって占っていたのかもしれない。そのことに思い至ったマイユは、ますますプーに腹が立った。僕はプーに占われているわけじゃない、と思いながら、大公の都を目指した。

「プーの占いを覆して、誰が真の占いの天才であるかを、占い族の連中に思い知らせてやる」

 勝算はある。投げた金貨が表か裏であるかは、あらかじめ占っておく。

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