第54話 大占祭の順位と解説

「なあ、アレフオ」

「はい、マイユ様」

 アレフオは人の話を良く聞く男だった。

「これを見ろよ。奴隷船の設計図だ。この屋敷を施工したオーゾレムの知り合いの建築士からもらったものだが、凄いだろう、船底に奴隷が敷き詰められている。ああ、アレフオ。お前は海賊船に乗っていたんだろう?」

「はい、マイユ様」

「ザナトリアの家族には奴隷船に乗ってもらうことにしよう。ザナンタの借金はあまりにも莫大だ。オーゾレムの港から奴隷船が出ている。奴隷商人にザナトリアを売り払って、かわりに金をもらおう。爆弾工場よりはましだと思うのだがね。あそこは秘密保持のために、入ってしまったら二度と出られないところだから」


「眠りの騎士団。占い師ギメーデギオスとやらは、そう言ったのか? 占い師ギメーデギオスに眠りの騎士団か。聞いたことがないな、まあ、いい。その名は記憶に留めておこう」

 アレフオは自分が『黒猫の舌』にいたことをマイユに話した。マイユはアレフオの話を整理した。

「それで『黒猫の舌』と眠りの騎士団が戦って全滅する夢を見て、一人で脱走してきたわけか。お前は目端が利くのだな、アレフオ。占い師に向いているかもしれないなあ」

 その話はプーの話へと変わっていった。

「プーにだけは占われたくなかった。プーが前から歩いてくると、無意識で木陰に隠れてしまう。体の幅の半分しかない細い木の後ろに無理やり隠れようとしてしまう。悲しき習性だ。

 村に放った何匹もの猫を占いで探して速さや点数を競う、という大占祭の競技では、プーが六年連続で一位だった。一位には、占いの神の使いの龍の地位を与えられるのだ。あれに敵う者はいない。悔しくも何ともない。神を間近で見ているようなものだ。プーの未来、過去、内面を見ることは、並の占い師では不可能だ。プーが自殺したなんて今も信じられない。花柄の覆面の男が心臓の形の爆弾を外す鍵を持っているのを、僕は占っていたのに。

 そして、二位。残念ながら、二位のベーテも別格だ。プーが参加するまでは、ずっと一位を保っていたのだが、プーの登場でベーテは龍の座を奪われてしまった。村の外れに、人形の工房があるのは知っているか? アレフオ。

 ベーテは人形占い師として、精巧な人形を作る。あの工房の中には、未来の村人の姿がすでに人形として作ってあるそうだ。後で人形工房にお邪魔させてもらって、人形たちの森の中を散歩して、未来の自分がいるかどうか探してみるといい。ベーテなら、もしかしてプーの秘密を知っているかもしれないが、訊いても知らないふりをするだけだろう。ベーテは何かおかしい。一流の占い師だから、壁を張るのが得意なのだろう。

 僕は親切だから、何も知らないお前に教えるが、壁というのは、他人に占われることを事前に占って、占われないように、壁を張って分からなくさせたり、占いの確率を大幅に下げたりする技術だ。嘘の占いを壁に描いて相手に占わせるという虚像という技術もある。自分や他人に、贋の未来や過去を貼り付けることができるのだ。内乱が始まる前にザナトリアが引っかかったな。道草占い師を殺したのはマジョーだと誤って占ってしまった。何者かが道草占い師の死体に虚像を施したのだ。その正体は僕には知る由もない。僕には虚像が使われたことくらいしか分からなかったのだ。何の話だったか? アレフオ。

 ああ、ベーテが壁の技術が得意だということか。孤独を好む性質でもあるしな。それで三位はインダという女だ。大量のムカデと一緒に生まれた女で、ムカデ占い師の不気味な女だよ。箱を大切そうに持ち歩いているから、箱の中身を覗き見てやれと占ってみたら、大量のムカデが蠢いているのが見えた。全く、大切な箱なら、何で簡単に占えるんだよ、壁で囲んでいろ、と僕は息巻いたよ。

 ちなみに道草占い師を殺したのは、インダで間違いないと思う。占い裁判で、僕はインダを挙げた。他に同じ占いだったのが、ブンボローゾヴィッチとベーテ。旧ザナトリア派の連中は、ほとんどマジョーを選んだ。『死んでいるものを占うとは片腹痛いわ』と、ザナトリアなどは高らかに笑っていたが、腹立ったな。インダにかなり強い力が働いているのを感じる。生死がはっきりしない。マジョーは全くの濡れ衣だな。よし、第二代占王の権限でマジョーは明日解放しよう。何の話だったか? アレフオ。ああ、インダが三位だってことか。

 そして四位に位置するのが、マイユであるこの僕だ。四位には何も賞品が出ない。とても遣り切れない。インダがいるせいでいつも僕は四位の座に甘んじているのだ。インダと僕ではそんなに差はないと思うのだが、僕より格下のブンボローゾヴィッチやブザーなどは、『越えられない壁があるのだ、金貨占い師マイユ・パピラヌス、来年に期待せよ』と有難くもない言葉をのたまうのだ。実にけしからん。お前もそう思うだろ、アレフオ?

 僕やプーやインダが参戦する前は、ベーテが龍の座で、ウラギョルというのが二位だったそうだ。最近は見ないがな。三位は、卵占い師のエインだった」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る