第47話 決闘が終わった後で占えばよいのだ
ブンボローゾヴィッチは鶏の鳴く声で目覚めると、寝床から飛び跳ね、ザナトリアの家に向かって走り出した。鶏の鳴く声で目を覚ましたザナトリアは、寝床から出ると、朝食を食べ、ブンボローゾヴィッチの家に向かって歩き出した。
その中間地点で殴り合いの喧嘩が始まるはずだったが、決闘は一向に始まらなかった。ブンボローゾヴィッチが、前からやってくる様子もなかった。ついにブンボローゾヴィッチの家まで辿り着いてしまった。ブンボローゾヴィッチの住居の中を覗いてみた。ザナトリアはブンボローゾヴィッチが壷割り占いをしている姿を目にした。ブンボローゾヴィッチが壺を割っている?
「決闘を前に占いとはな」
ザナトリアはブンボローゾヴィッチの背後に近寄った。床に散らばった壺の欠片を夢中になって読んでいるブンボローゾヴィッチの肩を引き寄せ、振り向いたザナトリアと瓜二つな、その顔を殴りつけた。
ザナトリアは自分に何が起こっているのか分からなかった。ブンボローゾヴィッチの顔を殴ったはずのザナトリアが、反対に顔を殴られ、ザナトリアは部屋の壁に叩きつけられていた。そこは、初めからザナトリアの部屋の中だった。ザナトリアは部屋から一歩も外に出てはいなかった。ブンボローゾヴィッチの家を襲撃している自分を占っている間に、逆にザナトリアの家に襲撃しにきたブンボローゾヴィッチが背後に忍び寄っていることに気付かなかった。いや、そもそもザナトリアが、壺割り占い師なのだ。
「ザナトリア。占いに夢中で、鶏の鳴き声に気付かなかったのか? 鶏の鳴き声を合図に目覚めるのではなかったのか?」
「糞、俺としたことが。何てことだ。俺とお前を逆に占ってしまったようだ」
「朝飯は食ったか? ザナトリア」
「いや、食ってない」とザナトリアが答えようとしたときに、ブンボローゾヴィッチの老いた、しかし岩のように硬い拳が、ザナトリアの顔にめり込み、彼に返事を言わせる暇を与えなかった。
俺は卵を食った。今度はザナトリアが反撃に出て、顔を殴られたブンボローゾヴィッチは、言おうとした言葉を口にすることができなかった。
ブンボローゾヴィッチが朝、何を食べたのかどうかなど、どうでもよい。決闘が終わった後で占えばよいのだ。そう思いながら、ザナトリアは続けざまに拳をブンボローゾヴィッチの腹部に打ち込んだ。ブンボローゾヴィッチは体を折り曲げて息を詰まらせたが、勝ち誇ったザナトリアの顎に頭突きを食らわせた。ザナトリアの口から飛沫が飛び散った。二人は不意打ちの食らわせあいを続けた。相手がどのように攻撃してくるのか、お互いが分からなかった。闘いの最中に確実な占いはできない。占いの道具を外した素っぴんの、素顔の占いの資質が試された。
「俺より年下のくせに。ブンボローゾヴィッチ」
ザナトリアは口から流れた血を手で拭いながら、族長代理を睨み付けた。
「たまたまお前が先にドラクロワを拾っただけで、族長代理とはな。族長は女の腹に自分の子を孕ませた痛手で去っていったぞ。俺だったらもっとうまく族長を育てていた」
「それがドラクロワの運命なのだ。愚か者ザナトリアは、何も知らぬから愚か者と呼ばれるのだ」
言い終えるとブンボローゾヴィッチは、愚か者に体当たりを食らわせた。棚に載せてあった壷が落ちてきて割れ、灯し油の容器が倒れてこぼれた。
二人は殴り合いの末に同時に気絶して、床に倒れこんだ。
ザナトリアの家族は外に避難していた。戸口から中の様子を覗き込んでいた族長代理派の卵占い師は、慌ててブンボローゾヴィッチに駆け寄って体を担ぎ、ザナトリアの家を後にした。これが占い族の内乱の幕開けだった。
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