第46話 書物のような牢獄
村のはずれにある大木の枝からマジョーは逆さまに吊るされた。マジョーは十年間吊るされることになった。マジョーは抵抗しないかわりに、ザナトリア派の村人たちにある要望を出した。吊るされる木を選ばせてほしい。マジョーはプーが死んだ場所を選んだ。
食事をさせたり、身体を拭いたりする世話役に、断食占い師が名乗り出た。他のものは、マジョーの友人の女たちからも、誰も名乗り出なかった。ネビアに石つぶてを投げた類の女たちは、罰を受けたマジョーに会おうともしなかった。マジョーは彼女たちが、疚しさから二度と自分の目の前に現れないだろうということを知っていて、この木に吊るされることを望んだ。女占い師たちは、死んだプーに花を手向けようにも、森に訪れることができなくなった。森に近付けば、マジョーの怨磋に満ちた逆さまの罵声を浴びさせられることを占っていた。物怖じした女たちの占いに、マジョーは応えなかった。マジョーは恨むことも悪態を吐くこともなく、大人しくしていた。
断食占い師は食べ物を持って、マジョーに食事を与えたいと森の見張り番に申し出た。森に入るときに、ザナトリア派の占い師に厳重に未来の行動を占われた。見張り番は、断食占い師の像に、マジョーを逃がしたりする徴がないのを確かめると、道を開けた。
牢獄には、物理的な牢獄と精神的な牢獄があった。
前者はオゾン大公妃に幽閉されたブザーのような、警護が厳重で、敷地内の地下という、極めて自力での脱出が困難な牢獄で、後者は、逃亡しようとする意思に制約をかけるもので、囚われた者の意志が弱かったり、善良の魂の持ち主であることで、牢獄がまやかしのように成立する。悪行に加担させられたり、大切なものを人質に取られたり、弱みに付け込まれることで、いつの間にか、弱さや善良さの囚人になっている。ミトレラ・ピサンドラのように。
占い師たちに囚われたら、逃げ出すのは不可能に近い。囚人が内包している未来を悉く読み、いかなる脱出の兆しも見逃さなければ、どんな強固な意志と協力者がいても、すべて事前に対処されてしまうだろう。運命を照らして、囚人に異変がないかを読む。読まれるときにはあらかじめ完結している、書物のような牢獄だった。
逆さまになったマジョーの頭は、断食占い師の腰の辺りにくるくらいに位置していた。髪の毛は地面に向かって広がっていた。地面に触れそうだった。マジョーは両手を自由に使うことを許されてはいたが、占いの道具を使い、占いをすることは禁じられていた。
断食占い師はパンをマジョーの手に渡した。手の平を上に向けて受け取ったマジョーはパンを小さく千切って口の中に運んだ。体が逆さのため、飲み込むのに苦労した。パンを手から離すと、空に敷き詰められた緑の葉の上に落ちていきそうだった。
断食占い師は、彼女が獣の子のトロイだと信じているバビリッシュを、連れてきていた。
マジョーはバビリッシュを抱きたいと言ったが、逆さまの腕ではうまく赤子を抱くことができず、バビリッシュを頭から地面に落としてしまった。
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