第31話 黙示録を読みながら窓辺の飾り物に
はるか遠い過去に硝子の大公妃像を献上したクラリオスの姿をしているオブジェウスは、硝子の塔の一室が爆破されたことについて、妊婦が死んだことについて、オゾン大公妃に謁見を求めた。
「だからといって大公家が賠償する義務がどこにある。そもそも爆弾とは物を破壊するためにある」と妃に言い返され、「爆弾を売った者についても、大公家には守秘義務がある。それは分かってくれよ、ストーカー」と訊いてもいないのに、訊かれることを予期していたかのように釈明した。妃の口元の両端が僅かに開かれていた。
大公妃はオブジェウスの本体の父親のクラリオスのことなど覚えてはいなかった。
しらを切るな、オゾン大公妃、お前が爆弾を送ったのだろう、とオブジェウスは言えなかった。
顔を伏せ、屈辱に耐えていた。四人もの硝子の娼婦が爆弾によって消された。硝子の塔に、牛の首の客が現れると、必ず相手をした女は死んだ。牛の首を被った客の正体は、オゾン大公家の牛の家紋が顕すとおり、メギド・オゾン大公だった。妹たちからその正体は聞かされていた。オブジェウスは大公の血を引く子を手に入れるために、七人姉妹を上から順番に大公に割り当てていったが、妹たちは妊娠するまでに至らず、姉妹の三人までもが、爆死した。メギド大公は妃の手の者によって監視されていた。
オゾン大公妃は硝子の塔が爆発する夢をよく見た。あの不浄の硝子の塊、ルビヤの塔が、爆発して粉々になり、ただの砂になって、風に乗って草原を移動し、砂は塔の記憶を取り戻し、再び塔が作られる。その塔は明日の大公妃の夢のために建てられる。復活した塔は、朝から夜の間に再び忌まわしい娼婦どもの巣窟になり、快楽に興じる男とそれを金で許す女もろとも塔は何度も破壊される。
オゾン大公妃は硝子の塔の爆発劇を夢ではなく目覚めているときに観劇する日がいつか来ればいいのに、この目で見て硝子の雨を浴びて体を傷つければ、流れる血と鋭い痛みで硝子の塔が爆発したことを実感できるのに、とため息をついたが、やろうと思えば実行できるのにそれをしないのは、もし、本当に硝子の塔を爆発してしまったら、美しさのあまり発狂してしまうのでは、あるいはもう何にも感動できない日が一生続くのではと恐れたためだった。
硝子の塔は執行猶予の身のもとに、存在と快楽と金回りを許されていた。処刑前夜は永遠に延ばされ続けていた。大公妃の夜の願望の中で、繰り返し爆破されて、人間でもないのに血を流し続けていることを、塔は知らない。
いつだったかオゾン大公妃の命を受けた花柄の覆面少年が大公の御伴としてこの塔にやってきて、オゾン大公国最高の威力を誇る爆弾を部屋に仕掛けた。美しい物の姿を借りた魔法時限爆弾で、他の爆発に誘発されることもなく、衝撃を与えても、二つに割れたとしても、決して爆発せずに、その日が来るのを約束のように待ち続けた。単独で爆発する爆弾は、二十年後に硝子の塔の破滅を予言していた。黙示録を読みながら窓辺の飾り物に化けた美しい爆弾は、多くの女たちの手に取られ賞賛された。誰が置いたのか誰も気にはならなかった。
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