第30話 これがお前の母親だったんだよ
地下牢に入れられたドラクロワは岩の壁にもたれていた。アヴァロンが処刑されてから二日が経つ。
「私は快楽のために、毎日、硝子の塔に通いました」アヴァロンはドラクロワに話をした。
「硝子の塔なら友達と行ったことがある。壁に大きな穴も開けてしまった。その穴はドラクロワの穴と名付けられた」とドラクロワは応じた。思い出したくないマリアレスのことは、口にせずに済ませた。
「そうそう、よく彼女たちは、針カタビラを脱がせてあげると言っていましたね。何のことだったんだろう?」
二人の死刑囚はともに同じ風景を、思い出の中の透き通る硝子の塔を眺めていた。
「私がここで死んで、罪深いアヴァロンには当然の運命だ、エリーを巻き込んだのもお前の行いのせいだ、と残された人々は語るでしょうか。それでも愚かな私が、エリーに出会えたことは、私の人生で一番幸せなことでした。例え私が占い師で、彼女を愛したら、いつか処刑されることを、事前に知っていたとしても、恐れずにエリーを愛していたでしょう。それだけの価値があったのです。わずかな短い幸せのために、命が一つしかないことまで忘れてしまう。馬鹿みたいですよね。でも私はどんな占い師であろうと、誰にも私を馬鹿にさせはしない」
アヴァロンはドラクロワに、「死ぬ前にお伽噺に出て来る石像デックスのようなあなたに出会えてよかった」と言い、笑みをもらした。
「石で思い出した」懐から再びエリーの形見の石の首飾りを嬉しそうに取り出した。
「復讐に凝り固まり、葬式に出してやる暇さえなかった」
アヴァロンは最後に、石の首飾りに接吻した。
「横穴の中にこの石の首飾りを入れておきます。もし、この扉が善意の手によって開かれたとき、この石を持って外に出てください。硝子の塔にオブジェウスという私の友人がいますので、アヴァロンは死んだと伝えて、アヴェル・ゼーヌハートという私の子どもにこの石の首飾りを握らせてやってください。これがお前の母親エリーだったんだよ、と教えてやってください。もし不幸にもそれが無理であった場合、悪意の手によって扉が開かれたときは、不躾ですが私が言ったことと同じことを次にやってくる哀れな囚人に伝えてください。よろしくお願いします」
ドラクロワは快く承諾した。その夜二人は眠らなかった。アヴァロンが再び屈強な腕どもに連れ出された後、ドラクロワはどこか遠くで爆発する音を聴いた。地下牢の天井から岩の粉塵が落ちてくる。
エリー・ストーカーを爆弾で殺し、夫との間の不純物を取り除いたオゾン大公妃は、サーカスの大道芸人を大公の間に呼び、ジャグリングの玉のかわりに四個の爆弾を空中に投げさせていた。
爆弾が楕円を描き、次々に宙を舞っていった。芸人は得手ではなく、爆弾を投げさせられるとは夢にも思っていなかったようだ。オゾン大公妃は爆弾が生き物のように飛んだり、落ちたりするのを、夢中になって眺め続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます