第29話 爆弾舞踏会を開いております
ドラクロワは定期的に爆弾を踏んで、爆風吹きすさぶ廊下を、槍を構えながら疾走していた。
「大公妃はどこだ?」
「今日は大広間で、爆弾舞踏会を開いております」
ドラクロワは走っている途中に爆弾を踏んでも、その石の体が欠けることはなかった。
「大広間はどこだ?」
「突き当りを左でございます」
爆音を響かせ、爆風でカーテンを舞い上がらせ、大広間を目指していた。
多くの貴族たちが床に仕掛けられている爆弾を避けて踊りながら、優雅に舞踏会を楽しんでいた。大公妃は玉座に腰かけて休んでいた。いきなりドラクロワは、大公妃に向かって力を込めて槍を投げた。怯えた貴婦人が足を踏み外し、爆弾の床に触れてしまった。爆音がまた一つ。爆風が巻き起こり、周囲の貴婦人たちは衣装の裾を押さえた。槍は空気を切り裂いて、大公妃の額に命中した。強大な力を持った腕どもが、ドラクロワを捕らえににじり寄ってきた。舞踏会の曲を演奏していた楽団の手が止まった。辺りが静寂に包まれると、大公妃は低い声で笑い出した。槍が刺さった額からは、血が流れ出していた。その場にいた誰もが息を呑んで凍り付いた。不釣り合いな一角獣のような格好はよそに、大公妃はドレスを彩っている首飾りをもぎ取ると、ようやく額に刺さった槍を引き抜いた。血が一斉に迸る音も聴こえた。ドラクロワも彼を取り押さえている腕どもも、その狂った情景に心を奪われ、身体の動きを止められていた。大公妃は、槍の先端に首飾りを何重にも巻き付けて、目の前のドラクロワに向けて狙いを定めて、右手で槍を構えた。ドラクロワの投げた槍の倍の速度で、ドラクロワは飛んできた自らの槍に胸を貫かれた。槍に巻かれた爆弾仕込みの首飾りは、ドラクロワを捕縛している腕ども諸とも爆発した。
「馬鹿な。不死身か……」ドラクロワはそう呟くと意識を失って気絶した。
意識を取り戻したとき、暗闇の地下牢に閉じ込められていた。
闇の中で眠っていたアヴァロンは、数人の誰かが近付いてくる騒がしい音に目が覚めた。新しい囚人だった。地下牢の扉が開かれ、強靭な腕どもに抱えられて石像が扉をくぐって入ってきた。花柄の覆面の少年もいて、扉の向こう側で待機していた。石像はアヴァロンの右手側の地面に叩きつけられた。石像が何故、地下牢に収容されるのか分からなかったが、信じられないことだが、この石像の囚人は、普段は生きて体も動かすことができて、今は気絶しているらしかった。花柄の覆面の少年は、アヴァロンを一瞥すると、厳かに宣告した。
「地下牢は二人以上入れない決まりになっています。アヴァロン・ゼーヌハート、お前は明日の朝、大公妃様、立ち会いの下、爆弾刑になることが決定しました」
アヴァロンは首をうなだれた。
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