第28話 オゾン大公家に跡取りができた
ドラクロワが酒場で炎に包まれた後、神の王を殺した罪に苛まれ、自殺したプーに許しを請うために、占い族の村に帰還したとき、すでに村の跡形はなく、伝言を残すために待っている者も、一切れの木片さえなかった。背後に広がる森を残して、村は滅びてしまった。やがて雨が降り始めた。失意の足取りで、かつて村が存在した場所をドラクロワが歩き回っていると、奇妙な形の白く光る石が落ちているのを見つけた。ドラクロワは石の赤子を拾い、今はもういない親友と同じ名前を、脈打つ石に名付けた。自分の人生は間違っていたのかもしれない。どこで間違えた? 誰のせいで、こうなってしまった? プーが死んでから、すべてが狂い始めた。この石は自分の弟かもしれない。ジュリアン・サロートを殺したことで村が滅びたのだ。
十九年前に、ブンボローゾヴィッチが石を拾った時と同じように。
ドラクロワは人生をやり直すためにプーという名前を石に付けた。
ウラギョルにプーを預け、馬車の手綱を握ると、乳を探しに向かった。金もいる。ドラクロワとウラギョルは大公のオーゾレムの都の街頭に座り、占いで金を稼いだ。ウラギョルはまるで死んだように呆然としていた。翌日、プーを抱えたまま、ウラギョルが忽然と姿を消した。
占い師と名乗る男が石でできた赤子を携えてオゾン大公邸にやってきた。禿げ上がった頭に、下卑た眼つきの見るからに小悪党の男はウラギョルと名乗った。石でできた子どもと引き換えに金貨をもらったウラギョルは去っていった。大公妃は石の子を気に入り、神話の登場人物から、デックスと名付けた。石の怪物を大公の跡取りにすることに家臣は戸惑いを覚えていたが、誰も妃に逆らえる者はいなかった。要するに大公妃は、大公と他の女の血が混じった子以外なら、何でも気に入った。石であろうと、猫であろうと、硝子像のおまけとしてついてきた子どもであろうと。
裏切られたことに気付いたドラクロワは、オゾン大公家に石の姿の跡取りができたことを耳にした。子どものできない石女の妃に石の息子が授けられた。ドラクロワは、プーを取り戻すためにオゾン大公邸に乗り込んだ。最後の予言でも伝えるかのように、槍を持った石像が闖入し、オゾン大公妃に、石の子どもを返してもらいたいと申し出た。少し前に占い師が持ってきた石の子どもは俺の弟だ、プーを返せとドラクロワは喚いた。ひと悶着があり、ドラクロワの願いは取り下げられたばかりか、この珍騒動が人の口の端にのぼるのは、後々によくないと多くの者が感じたために、ドラクロワは捕らえられることになった。初めのうちは抵抗していたが、「ジャッカルさん」と呼ぶ声に不意をつかれ、恐ろしい力を持った腕たちによって取り押さえられた。思わず、「ジャッカルさん」と石像を呼んだのは、酒場で出会ったミトレラだった。ドラクロワは渾身の力を込めて、腕たちの制止を振りほどいて、大公邸内を駆け出した。絨毯にはくっきりとドラクロワの足跡が残されていた。後に「ジャッカルの足跡」と名付けられ、好奇心旺盛なものは、絨毯に寝そべり足跡に接吻したが、その足跡は多くのものたちによって踏まれた後なのかもしれないという推測を貴婦人に窘められるまで不覚にも怠っていた。
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